魔術師トリオ、世界を焼く
霜夜みどり
猛尺編
入学
第1話 出会い
太陽が水平線から顔を出した。海と飛行機を眺められる広い窓から、初夏の暖かい陽の光を受けた少年は膝に視線を落とす。
少年の名は
「じいちゃんとばあちゃん、寂しくなるなぁ」
結斗の憂いを含んだ呟きは、誰にも届くことなく空気に溶け込んでいく。
「東京行きのお客様は三番搭乗口までお越しください」
飛行機に搭乗するための準備が整ったようだ。結斗は重い腰を上げ、搭乗口に行った。
八歳から一度も訪れていない、東京都。
結斗は八歳以降、高校二年生の途中まで田舎でひっそり暮らしてきたが、祖父母に突然東京の学校に転入するように言われたのである。しかも、ただの学校ではない。魔術師のための学校だ。
魔術師。
結斗はつい最近までその存在について知らなかったが、この世界には魔法と似ている「魔術」や「魔神」と呼ばれる怪物が存在するらしい。詳しくは東京に着いた時に迎えに来てくれる寮のルームメイトと教師に教えてもらうようだ。
「現実味がない……」
結斗の祖父母はなぜ結斗が突然魔術師の学校に通うことになったのか、詳細を教えてくれなかった。抗えない力に彼らが従わされている、としか言われていない。
搭乗口を抜ける前、結斗は両親が火事で亡くなって以来住むようになった故郷を目に焼き付けてから飛行機に向かった。
~☆~☆~☆~
「懐かしい」
羽田空港に到着し、結斗の目は輝きを取り戻していた。八歳までは東京に住んでいたので、県外に住んでいる祖父母に会いに行くときによく来ていた。
父方の祖父母も両親と一緒に火事で亡くなっているので彼らの家に行くことはもうないが、まだ彼らが生きていた頃に両親と共に飛行機に乗っていたのを結斗は思い出していた。そのせいか、また結斗の歩みはまた遅くなっている。
両親が亡くなってから長い年月が経っているが、未だに結斗はトラウマにうなされることがある。
流れていく人についていき、結斗はスーツケースを取ってから生徒と教師との待ち合わせ場所に行った。待ち合わせ場所はとある飲食店の前で、すでに二人の人物が待っていた。
その二人こそが魔術師のための学校、魔術師育成高等学校の生徒と教師だ。生徒の方は落ち着いたこげ茶の髪に黒縁メガネをかけており、クールな切れ目である。彼は制服を着ていて、白シャツと幾何学模様のネクタイ、茶色のベルトと黒ズボンを穿いている。
魔術師育成高等学校ではネクタイが自由なので、自分の好きなものを着けられる。
一方の教師の方は身長が高く、その上細身なのですらっとしているように見える。灰色のシャツ、黒のベストとジャケット、ベルト、ズボン。青い幾何学模様のネクタイは知的な印象を与える。糸のように細い目は、文庫本に向けられている。
「こんにちは。学校の人で合ってますか?」
結斗は集中している二人に申し訳なさそうに声をかける。生徒の方はスマホから視線だけを上げて結斗を見ると、教師の肩を叩いた。
「ん? あ、初めまして枳殻くん。私が魔術師育成高等学校の教師を務めている、
「俺は
生徒、朔があっさりと自己紹介を終えた。教師の四條は呆れたようにため息を吐く。
「全く、君はいつもそうやって素っ気ない……」
四條は腕を組んで朔を見据える。それに構わず朔は行き交う人を視線で追っている。
「はあ、仕方ない。枳殻くん、君は高校二年生だったと聞くが、私達の学校では一年生に落とされる。だからこの阿刀くんと同学年だ。仲良くしてくれ」
「はい。よろしくね、阿刀」
結斗は仲良くできるようにと思い、苗字を呼び捨てにして呼んだ。
「ああ」
こんなに態度が悪ければ普通の人は嫌な気持ちになるが、結斗は違った。結斗はどこまで朔の心を開けるか、と期待に胸を膨らませていた。
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