第二十一話 新章、最強トーナメント編スタート!
前回までのあらすじ
がんばって剣の免許をとったやったね。
町の大通りをはずれた道の先。
人々のにぎわいから離れた場所に、その建物は静かに建っていた。
冒険――危険と隣り合わせの浪漫――それを求めて人々が集う。
ここは冒険者ギルド。物語がはじまるのはいつだって唐突。
「天下一武○会?」
物語はいきなりのNGワードで始まった。
「ああ、町長が町おこしイベントの一環としてやるらしいね」
どこか薄暗い冒険者ギルドの受付。
少し太った中年男性は薄く笑う。
啓太はコンプライアンス的に少し顔をしかめた。
「名前はどうにかした方がいいんじゃないかなあ」
「名前はまだ本決まりじゃないそうだよ。あと出場者と運営する人と会場の場所も」
「出来るだけ穏便なものになってくれるといいな」
『魔界統一トー○メントなんてどうです』
妖精は突然ぶっこんできた。
「魔界じゃないし、インスパイアでいける範囲を超えてるんじゃないかな」
『では、全日本セ○シーコマンドーフェ○ティバルはどうです』
「リスペクトでもフォローできそうにないね」
その後も銀○戦争とかハンター○験など、フォローの難しい発言を繰り返す妖精を啓太は無視することにした。
「でも突然大会開くとか何があったのかな」
首をひねる啓太に、受付の中年男性は何かを思い出したように話し出す。
「ああ、魔物の討伐に行っていた腕利きの冒険者たちが戻ってきたんで、それでじゃないかな」
「へええ」
「ケイタ君は出るのかい?」
「無理無理、俺は溝掃除にしときます」
『勇者よ……その力で華麗に優勝するのです』
妖精は厳かな雰囲気を演出しながら世迷いごとを言い放った。
「力ないし。そういう事言うならチートちょうだい」
『勇者よ……知恵と勇気と気合と根性とやる気とやりがいでなんとかするのです』
「盛りだくさんだね。続きは労働基準監督署でお願い」
啓太と妖精がよもやま話で盛り上がる。
そんな冒険者ギルドに一人の男が現れた。
「ふははは、我がライバルよ、決着をつける時が来た!」
元気いっぱい夢いっぱいでやってきたのはジョージだった。
「ジョージは出るの? 大会」
「当然だ! ミカボシ流剣術で優勝はもらう!」
そう言ってジョージは室内で剣をぶんぶんと振り回しだした。
それを見ていた受付の中年男性は、やれやれといった感じで口を開く。
「ジョージ君、室内での剣使用は違反だよ。報告しておくね」
「よろしく頼む!」
相変わらず剣を振り回すジョージ。
そこへ鎧兜の重装備の人たちがやってきてジョージを取り囲むと、紐で縛ってギルドの外へと連れて行った。
「……あれは何?」
「治安維持機構の人たちだよ」
「ジョージは?」
「しばらく剣免許は停止になるだろうね」
「いきなりリングアウトかあ、すごいな」
『ライバルが減りました。この調子です勇者……全ての人々にその力を示すのです』
妖精は鼻息荒く輝ける未来を指し示した。
「じゃあこの溝掃除で」
「はい、受理しました。がんばってね」
啓太は地道で堅実な世界を歩き出す。
受付で三人がわいわいやっていると、ギルドの建物に何者かがやってきた。
すごい勢いよくドアの開く音がする。三人が振り向くと、そこには一人の老紳士が立っていた。
三人が見つめる先で、力強く開いた扉が反動で勢いよく閉じられる。
ばごん、という感じのなんか鈍い音がした。
「……」
三人が言葉を失い扉の方を眺めていると、扉はゆっくりと開き、仰向けに倒れた老紳士が鼻血を吹いている。
三人が無言のまま扉の方に視線を送っていると、老紳士がどこか機械を思わせる動きで起き上がった。
間接のベアリングに注油を忘れたようなぎこちないというか直線的な動きでギルド内の受付まで歩いてきた。
「失礼、よろしいかな」
「ああ、セバスチャンさん、かまいませんよ」
鼻血で衣服を赤く染めながら直立不動、それはまるで一本の揺ぎ無い棒が背筋をまっすぐに貫いているような。
人の身でありながら直線で構成されているような硬質な姿勢。白くなった髪を総髪にし、深い眼窩からは鋭い眼が前方の世界をとらえる。
ジョージの家の執事であるセバスチャンその人であった。
「ケイタ様はいらっしゃいますかな」
「あ、はい」
セバスチャンは所々赤く染まる服の内ポケットに手を入れ、白く艶のある手紙を取り出した。
「お坊ちゃまとの決着をつけていただきたく……武闘会の招待状でございます」
「いりません」
「では……」
それだけ言うと、おびただしい出血に顔面蒼白だったセバスチャンはゆっくりと倒れ、ごとり、という音と共に床に横たわる。
倒れ付す顔の辺りにおびただしい血だまりが広がっていった。
「着払いで送り返していいかな」
『勇者よ、今こそ勝利の時です』
「戦ったことないし、剣道とかそういう経験ないし」
ポジティブな妖精に対しネガティブな啓太。その様子を見ていた受付の中年男性が口角を少し上げた。
「まあ、出ておいて損はないと思うよ。冒険者は名前を知られてなんぼって所があるからね」
「そうなんですか……うーん」
『出場すれば女の子にモテモテで背も伸びますよ』
「背の事はいうなあ!」
きれた。
*******←
「第一回ッッ! チキチキ武闘レースどこまでできるかな大会ッッッ!」
「うおおおー!」
赤い上着に黄色のズボン、紫の長い帽子をかぶり、袖からキラキラする紐がいくつもぶら下げている派手な男が叫び声をあげると、観衆から大歓声が沸き起こる。
以前料理勝負をおこなったコロセウムは再び熱気に包まれていた。
「それではッッ! 開始の前にルールの説明を行いますッッッ!」
「おおおー!」
なんでもないことで観客のボルテージはガンガン上昇していく。
「出場者の皆さんにはッッ! 神剣ッ、神槍ッ、神槌ッ、などのッ! 竜の装備を使用していただきますッ!」
中央の闘技場の入り口付近にやって来た係りの人がぞんざいな扱いでそれらを投げ捨てていった。
「これら竜の装備はッ! 叩いてもあまり痛くなく安全ッッッ! 出場者の皆さんは後顧の憂いなくッ! 振り回してくださいッ!!」
「うおおー!」
建物を震わせるような大歓声。それを出場者控え室で聞いていた啓太はため息をついた。
そのそばでは妖精がふわふわと浮遊している。
「あのイボやっぱり武器としてはアレだったんだ」
『勇者よ、神の加護を授けましょう……』
「どんなの」
『何者にも負けない心です』
「具体的には」
『根性出せば大体何とかなります』
「そうなんだ。いらない」
否定された加護に妖精が頬をふくらませていると、会場でまた歓声があがった。
「それではッ! 町長より開始の挨拶をいただきたいと思いますッ! お願いします町長ッッ!」
派手な司会の声の先には、周囲と比べて豪奢な席があった。
その席の横に立っている、どこかマ○オさん似の男性が隣の威厳のある老人に話しかける。
「あの、お義父さん、どうしますか」
老人は白く伸びた眉毛の下で、閉じられたままのまぶたをピクリと動かした。
「ングゴー、ンガガガ」
「ありがとうございますッ! それでは第一回戦、ケイタ選手対ジョージ選手ッ! 入場してくださいッ!」
控え室の啓太はびっくりした。
「え、もう? というかジョージ出てたんだ。剣は免停中だし素手かな」
『勇者よ、背中のヒレを狙うのです……』
「うん、人類にそういうの無いから」
啓太は闘技場へと歩を進める。
入り口でちょうどいい長さのイボを手に取り中央へ向かった。
その眼前にそびえるのは浅黒い肌をした身長二メートル位のムキムキの体をした知らない人。
「ウウウ、オレ、ジョージ。シュクメイ、ヤル」
「別人じゃねーか!」
啓太はついうっかり声を荒げた。
「堂々と替え玉するなー!」
「それでは一回戦ッ! 始めッ!」
「オレ、ヒッサツワザ、ヤル」
そういうとジョージ(?)は突然観客席に向かって走り出し、塀をよじ登り観客席を走りぬけ、町の旗が掲げられている場所へよじ登っていった。
コロッセオの一番高い場所で、ジョージ(仮)は両手を広げる。
「エート、ヒッサツオウギ、ナン、ナン、ナンダッケワスレタ!」
闘技場に向かってジャンプしたジョージ(笑)は、重力に引かれるまま加速してそのまま地面に叩きつけられた。
「一回戦ッ! ケイタ選手の勝利ッッ!」
「アホかあ!」
担架で運ばれていくジョージ(重症)。
その様子を見ていた観客席の町長は、隣の威厳のある老人に話しかけた。
「あの、お義父さん、どうしますか」
老人は白く伸びた眉毛の下で、鋭い眼光をきらめかせ、町長にぼそぼそと何かしゃべった。
町長は司会の男を手招きして近くに寄ると、ぼそぼそと何かしゃべった。
「それでは引き続き第二回戦ッッ! ケイタ選手対ジョージ2選手ッ!」
「おいー!」
全力で突っ込む啓太の前に、ジョージ2が姿を現した。
ムチをもった精悍な顔をした小柄ながら引き締まった身体の男……のそばにゴリラによく似た獣人が鼻息荒く立っている。
「おっとおッ! ジョージ2選手の得意技ッ! モンスター使役だッ!」
「ポ○モンかよ!」
啓太はついうっかり名前を出した。
「それでは二回戦ッ! 始めッ!」
小柄な男がムチをしならせる。
「行けえッ!」
獣人が重量を感じさせる歩きで近づいてきた。
「うわマジか。こうなったら……えーいこっちもアレだ! 妖精さん行けえッ!」
『えっ?』
「根性、根性見せて!」
『よく分かりませんがくらいなさい!』
妖精がくるりと一回転すると、空から一条の光が闘技場に降り注いだので闘技場が持ち上がって落ちた。
コロッセオは廃墟となり、負傷者多数。当然ながら武闘会は中止。
突然の天災は“セミテの揺れた日”として長く記憶される事となったどんまい。
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