第二十話 剣の道(後編)
町の近くにある林には一つの言い伝えがあった。
“木々の間にある道の先には神剣があり、選ばれし者が来るのを待っている”
その伝承の始まりは今から半年前にさかのぼる。
町おこしを目的とした青年会の会議で、お酒に酔っ払った青年(42歳、青年会も高齢化が進み最年少)が一糸まとわぬ姿で躍動感のあるダンスを披露していた所、青年会会長(72歳、街中で公然わいせつにより執行猶予中)の頭に天啓ひらめく。
“すばやく動けば局部はよく見えない”
善は急げとばかりに青年会会長は立ち上がり走り出した。
遠い昔、若い頃夢見ていた自由な世界、それが今実現しようとしている。
大通りについた青年会会長は服を脱いでブルンブルンブルンブルンブルンブルン
――それは、ひとときの夢だった――
という事があったけどそれはまあ置いておいて、神剣云々は剣免許に人があまり来ないのでキャッチコピーとしてガレットが考えた。
「関係ない話が長い!」
啓太はまず否定から入ってきた。
『今回のノルマは神剣を勇者らしくゲットすることです』
妖精はノルマの提示をした。
「ノルマあるんだ。ノルマ達成の見返りは?」
『次のノルマに反映されます』
「……どうなるの?」
『やりがいが増えます』
「ブラックノルマだね。パンデミックでも喰らって閉鎖するといいよ」
啓太は木々の間を貫く道をじっと見つめた。
傾きだした太陽の光が、緑の隙間から茂みの隙間をぬうように走る道を照らす。
「……何が出てくるか分からない、か」
何も考えずに突っ込んだジョージは、茂みから飛び出したモンスターに跳ね飛ばされて赤く染まりながら空を飛んでしまった。
今は剣を杖代わりにしてよろよろと大地に赤い足跡を点々と残して歩いている。
「準備はいいかな、それじゃあ試験はじめ!」
ガレットの白い歯が光を反射してギラギラと輝く。
その光に照らされた道はいつかの未来へと繋がっている。
啓太は剣への道を一歩踏み出した。
「さてと……」
前回切り倒した木へと何歩か踏み出した啓太は、枝を斧で何本か切り落とした。
『勇者よ、無駄な動きはマイナス査定になります。最小のコストで最大のベネフィットを!』
「五本位もっていこうかな」
妖精の厳しい査定を通り過ぎた啓太は、枝を抱えて道へと向かう。
向かう先にあるのは茂みに挟まれた油断ならぬ旅路。
「えい」
啓太は手に持った枝を一本茂みの近くに放り投げた。
「ぶもおおおおお!!」
イノシシのようなモンスターが勢いよく飛び出してきた。
向かいの茂みからも飛び出した。
二匹は鈍い音をたてて衝突、道をふさぐように昏倒した。
それに反応したのか奥のほうからも飛び出してきた。
その奥からも飛び出した。
そのさらに奥からも。
重低音の衝突音が幾度も響き、見る見るうちに輝ける未来への道筋はモンスターで埋まっていった。
「予想以上にバカだった……」
『異議あり!』
妖精は右手を高々と上げた。
「却下します」
啓太は冷静に却下した。
『勇者は華麗な剣技で敵を倒すべきです! 裁判長!』
「いません」
いなかった。
啓太は倒れて動かないモンスターをよけながら道を行く。
ジョージは虫の息で後に続く。
「……休んだ方がよくない?」
「ふっ、心配無用……今朝は焼きたてパンを食べたから平気さ!」
「……うん」
ジョージは赤く染まった親指を立てて元気さをアピール。
しばらく歩いていると、茂みと木が途切れて視界が開けた。
やわらかい風が啓太の頬をなでる。
眼前に広がる草原は静かに緑をたたえ、池には澄み切った水が流れることなくそこにあった。
「水うめえwwwwwwwwwぶふぉwwwww」
池では古の知恵ある竜が水をがぶ飲みして吹いている。
「……ちょっと、なんであの竜ここにいるの」
『水属性……だからでしょうか』
啓太と妖精は、嫌そうな顔をした。
「まあ近寄らなきゃいいか、神剣はどこかな」
『あそこです』
妖精が指差した先には古の知恵ある竜の尻尾があった。
先端にほど近い場所から棒のような物が突き出している。
「おうふwwwwむずむずするwwwwwかゆいwwwww」
偉大なる竜は尻尾の棒をつかんでちぎって池に放り投げた。
「……え?」
『あれが神剣です』
衝撃、神剣はカテゴリー的に魚の目やたこの仲間だった。
池をよく見てみると、透き通った水の中に棒が何本もゆらゆらとたゆたっている。
「うん、まあ、そうだなあ、言いたい事はあるけどもういいや」
「ふっ、ライバルよ、神剣は僕がいただく!」
剣を杖代わりにしたジョージが片足を引きずりながら池に向かって歩を進めた。
ざぶざぶと腰まで水に浸かる。
「水wwwwさっぱりとした味wwwwwやべwww味ないwwwwww」
伝説に語られる知恵ある竜は夢中で水を飲んでいる。
「神剣ゲットごぼぼ」
ジョージは順当に水没した。
「水wwwww鼻から飲めばwwww香りがwwwwwwぶうぇーくしょーいwwwww」
偉大なる竜は鼻から水を、口からは炎のブレスを噴射。
古の伝承で、魔族の軍団をなぎ払ったという火炎の奔流は池の水と神剣、あとジョージを吹き飛ばした。
「やべwwww池がwwww逃げよwwww」
伝説の竜はただのくぼ地と化した池を後にして、どすんばたんと去っていった。
細かい水の粒があたりを覆い、晴れた空に虹がかかる。
啓太の近くに棒がいくつも落ちてきた。
「とりあえずこれ持って帰ればいいのか」
『よくぞ神剣を手に入れました勇者……その剣を使えば地を割り、天を引き裂くことが出来るでしょう』
「えっ、そんなにすごいのこれ」
『勇者が気合と根性で身体を滅茶苦茶に鍛えれば可能です』
「そうなんだ。資源ゴミでいいかな」
啓太が棒をながめていると、ジョージがなんか鈍い音をたてて着地した。
「ぐふっ、神剣を手に入れたぞ……」
「……すごいな。立てる?」
「無論……この程度、蚊に刺されたほどにも……いや、虻、というか蜂……通り魔に刺されたほどでもない」
「結構なダメージじゃん。肩貸すよ」
「……借りにしておこう」
「はいはい貸しね」
二人は見事神剣を持ち帰り、実技試験に合格した。
これで晴れて剣を持つことが認められる。
次回「実は剣はリーチが短くて危ないからみんな槍免許を取る」
お楽しみに。
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