第六話 草食ドラゴン
太陽は地平より離れ、中天に向かってわずかずつ、だが確かに動く。
小高い丘の上では、大きな竜が静かに座り、その前にいる人間はうろたえつつそれを見上げ、そのそばを妖精が浮遊していた。
「いや、うん、お互い無事でよかった……です」
(気ヲ使ワズトモヨイ。主ハ我ノ恩人ダ)
「は、はあ」
改めて啓太が竜を見上げる。
いかにも硬そうな鱗に覆われた身体は巨大で力強く、おとぎ話やファンタジーの中で畏れをもって語られるドラゴンという存在を実感させるものだった。
「お、大きいですね」
何を話していいかわからない啓太は、受け取り方によってはセクハラになりそうな発言をした。
(我ハタダ長ク生キテキタダケダ)
竜の言葉が頭に響く。ぐわんぐわんと響く。
「あの、もうちょっと声小さめで」
「あ、そう? じゃあ普通にしゃべるね」
「普通にしゃべった!」
啓太は普通に驚いた。
「いやー、もうしゃべるの久しぶり! ああ楽にして楽に」
「気さく!」
啓太は普通にびっくりした。
「ほんともー、寝てたらいきなり流されちゃってさあ、気がついたら水の中なんだもん、びっくりするよねー、おかげでこんなに水浸し! これが本当の水もしたたるいいドラゴンってね!」
竜は両手を口元にあててプフフーとか言っている。
あっけにとられていた啓太は、妖精に近寄って小声で呟いた。
「知恵ある……竜?」
『何か問題が?』
「いや、うん、まあ確かに知恵があるといえばあるような……なんかすごいショックなんだけど」
『伝説に語られる偉大な竜です』
「草のベッドにwwwww寝てたのにwwwww気がついたらwwwwウォーターwwwwwwベッドwwwwブフォ」
伝説に語られる偉大な竜はついに草を生やし始めた。
「(……うざいな)」
『(……うざいな)』
いままでバラバラだった啓太と妖精の心がようやく一つになった。
「それじゃ元気で」
『先を急ぎましょう』
二人は草製造マシンに背を向けて歩き出す。どこにあるとも分からない、まだ形も無い未来へと。
前をみよう、前を見よう、後ろにあるものはもう変えられない。
やがて、いつかは、辿り着く。
「ヤベッwwww気がついたらwww誰もwwwいないwwwファイヤーwwww」
偉大な竜が特に意味も無く吐いた火炎は草(概念)と草(実体)を焼いた。
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