死神使いの英雄譚
MY.ME
第一話:死神使いの青年
♢謎の少年少女
ドォーン!
この街、ローゼンデイの端にある小さな街で爆発が起きた。市民は戸惑い悲鳴をあげる。煙の奥から出てきたのは一体のゴーレムだ。
惑う市民を追撃し始めるゴーレム。そしてものの数十秒、そこ一帯は血で滲(にじ)んだ。そこに足がすくみ立ち上がれない男の子がいる。ゴーレムはその男の子に目をつけ攻撃を仕掛けるが、間一髪で男の子を何者かが助けた。
「大丈夫、動ける?」
「……」
「わかった。ちょっと待ってて」
助けた男は動けない男の子の頭に手を当てて何かを始める。すると、さっきまで立てずにいたのが、立てられるようになった。
「……凄い」
「俺の力を分けた。このまま振り返らずに、安全な場所まで逃げろ。時間は稼ぐから」
男の子は、言われた通り安全な場所まで走って逃げて行った。
「さてと…っ!?」
男はゴーレムの方に目を向ける前に、ゴーレムの方から一瞬にしてそばまで接近されて、攻撃を食らって壁に激突してしまう。
「痛ってぇ。あの巨体で動きが速いなんて、反則だろ」
ゴーレムは休憩を与えることなく、すぐに追撃して来た。その攻撃を回避し、腕に飛び乗りゴーレムの頭に攻撃を仕掛ける。
「水魔法 水弾!」
勢いよく放たれ、ゴーレムにクリーンヒットさせるが、すぐに立ち上がってしまう。
「随分とタフな体だな。っ!?」
突然、何かムチのようなものが足に絡まり離れない。それは基本四魔法の一つ、雷の封印魔法だ。慌てて解こうとするが、ゴーレムの拳が激突し遠くに吹っ飛ばされる。
(くはっ…やばい、これは一人じゃキツすぎる)
男は一旦、その場から姿を隠しゴーレムの背後に回り、物陰に隠れる。周囲を見渡しもう人影がないのを確認したところで、自分の親指を歯で噛みちぎり血を出す。
「よし。出て来いシーシャ。お前の出番だ!」
男は自分の血を地面に垂らすと、垂れた所を中心に赤く光る。
すると、一人の少女が現れる。
「あーっもう、ラグちゃん。買い物中に呼ばないでよね…って大丈夫、ラグちゃん」
「すまん。ちょっと手伝ってくれ。あそこにいるゴーレムの俊敏性と反射神経が尋常じゃない。あれは、俺一人じゃ止められそうにない」
「ラグちゃんの願いなら、叶えなくちゃね」
「俺が援護するから、お前は自由に叩きまくれ」
男にシーシャと呼ばれた少女が取り出したのは、白とピンクの鎌。それを武器に、ゴーレムに攻撃を繰り出す。一方、男の方は遠距離攻撃で、ゴーレムの脚や腕の部分を集中攻撃。しかしゴーレムは耐え続けて、ついにはシーシャを掴み放り投げる。
「おいシーシャ。どうしたよ。簡単に吹っ飛ばされるなんて、お前らしくないぞ」
「…足りない」
「え…まさか…」
「ラグちゃんの血が…」
「マジかよ…あぁもうじゃあすぐ倒せよ」
「うん。血をくれたらあんなやつすぐに倒しちゃうよ」
「言ったからな」
男は自分の持っていたナイフで、右掌に刃先を入れた。今にも血が垂れ流れそうな手をシーシャの頭上に持っていき、血を絞り出す。
「あんっ…ゴクッ ゴクッ」
「…あんまり変な声出すな。それより始めるぞ。『血術 絆(リンク)』」
そう口にすると、シーシャが光だし格好が変わっていく。
「はぁ、はぁ……さっさと倒せよ」
「ラグちゃんを傷つけるやつは、私が懲らしめる!」
シーシャはゴーレムの懐に光のようなスピードで入り、蹴りを二発繰り出すとゴーレムが倒れ込む。
「悪いけど、時間がないの。ここで終わって」
シーシャがゴーレムに鎌を振り下ろす瞬間、ゴーレムの目からビームが出る。間一髪のところで当たらなかったが、姿勢を崩されてゴーレムのパンチをもろに受けてしまった。
「クソ。苦戦してんのか」
「大丈夫。油断しただけだよ。それより、ラグちゃん大丈夫?」
「大丈夫に見えるなら病院行け。心配するなら、戦いが終わってからにしてくれ」
二人は同時にゴーレムの方を見た。ゴーレムの様子がおかしかったからだ。大型の体から徐々に細い体に変形する。変わったのは体だけでなく、全てのステータスが大きく上昇していた。
「シーシャ、少しだけ時間を稼いでくれ。切り札を使う」
「でも、あれって…」
「やるしかない。お前は動き回りつつ、コアをむき出しにしてくれ」
「…わかった」
シーシャはゴーレムの周りをウサギのように動き回り、攻撃を合間に繰り出すが、その動きに合わすかのように、ゴーレムも俊敏に体を動かしていく。両者互角で耐久戦になっていくが、油断も隙もない両者は攻撃を繰り返し続けた。死闘の末、シーシャがついに心臓(コア)をむき出しにすることに成功。
「ラグちゃん」
「終わりだ。水爆!」
ズドォォォォン!
下から攻撃を繰り出し、ゴーレムのコアに命中。ゴーレムは上に吹き飛び、地面に勢いよく落ちる。そしてコアを破壊されたため、機能しなくなり、だんだんと体が消えていく。それを見て安堵(あんど)し、男は尻もちをつく。
「終わったぁ」
「ラグちゃん!大丈夫?」
「悪いシーシャ。体力と血を回復したいから、少し寝る。あとは任せた」
「うん、わかった。お疲れ様ラグちゃん」
男は瞼を閉じ眠りについた。
この少年と少女は一体何者なのか、それはだいぶ前に遡(さかのぼ)る。
♢死神と少女
五歳になると同時に、自分の血(DNA)と適合する種族を召喚し、特別な相棒(パートナー)を得る風習が全世界に存在していた。
とある素朴な街の南に位置する教会。
『ラグクロ。そろそろ君も五歳になるだろ。召喚儀式場でパートナーを召喚してきたらどうだい?』
『そうですよラグくん。いつまでも、一人というのは寂しいですし』
『そうですね。五歳になったら行ってみます』
当時四歳の少年、ラグクロは無愛想に返事を返した。教会にいる牧師と聖女は親でないからだ。
本当の親は、物心がつく前に病死でこの世にいないと言われた。赤子同然の子供からしたら衝撃だっただろう。そのことから全てに対して、無愛想になったのだ。
『これで、彼の心も落ち着くかもしれませんね』
『そうですね。本来のラグくんに戻って欲しいです』
『そーだな。あんなツラは、もうこりごりだ。お前もそうだろ、カーバス』
『そうですわね。バッカル』
ちなみに牧師の名はヨールド。そして、彼の血から召喚されたのが天使バッカル。
聖女はアリス。彼女の血から召喚されたのが天使カーバスだ。
彼らは、心の底からラグクロを心配していた。
一週間後の五月五日に五歳の誕生日を迎えたラグクロは、教会の全員と召喚儀式場に向かって歩いていた。
儀式場にたどり着くと、すぐに案内され儀式が始まった。内容は、呪文を唱えて掌に切り傷をつけて魔法陣の中心に血を垂らすのみ。
言われた通り唱え、切り傷をつけ血を一滴垂らす。すると、静かだった部屋がいきなりどす黒くなり赤い雷が光る。
『どうなってるのですか!?』
『分かりません。こういうケースは、見たことがありません』
『なにか、嫌な予感がするぞ。ヨールド』
『すぐに儀式を中断させてください!』
『それは…残念ながら出来ません。中断すると、彼の命が崩壊してしまう恐れが…』
『そんな…』
見る見ると部屋は黒に染っていき、何も見えなくなってしまう。状況把握をしようとしても何も分からない。
(何も見えない、何も聞こえない。ボク、死んじゃったのかな?)
すると、ラグクロの肩を誰かが叩く。誰かが肩を叩くと黒い霧のようなものが、一気に晴れていく。
徐々に霧が薄くなり、周りが見渡せるようになった時、そこにはピンク色の髪に立派な二本の角、小悪魔系の尻尾がある素っ裸の少女が、ラグクロを抱きしめてきた。
それを見て、全員呆然としていた。背丈からして、年齢はラグクロと同じかそれ以下。
すると何故か、バッカルとカーバスは敵意をむけ出しにする。その事に気づいたヨールドとアリスは、戸惑いながらも、押さえ込もうと二人の間に入る。
『二人とも、どうしたんですか?』
『ヨールドの言う通りですよ。二人とも』
『二人には分からないと思うが、あいつは人間じゃない』
『え?』
『あの少女。何も魔力を感じないのよ。私たち天使に魔力感知が発動しないのは限られる』
『それって…もしかして』
『ああ。死神だ』
それを聞いたみんなは、驚きを隠せなかった。
『あいつ、なんてもの呼び寄せたんだ』
『ちょっと待ってください。彼らの様子がおかしいです』
見ると召喚された少女が、大粒の涙を零し泣いているのが見えた。
『苦しかったね。寂しかったね。でももう大丈夫だよ。私があなたの心の支えになってあげる』
その言葉を聞き、ラグクロは自然と涙を流した。涙を拭いても、拭いても止まらなかった。そして、声を出しながら泣いてしまった。
『どういうことですか?』
理解したようなヨールドをアリスは、何がわかったのかと問う。
『あの少女には、違和感を感じるのです。これは私の仮説に過ぎませんが、彼女は死神などではありません』
『どういうことだ?あいつからは全く魔力を感じないのだぞ。それに、あの姿は間違いなく死神だ』
『あの少女は、ラグクロの負の感情から生まれた、いわば人造悪魔のようなものです』
ヨールドが放った言葉にみんなは戸惑う。
『なるほどな。それなら、魔力を感知できないのも辻褄(つじつま)が合う』
人の負の感情から生み出された死神は、言い換えれば、ラグクロの感情の人形だ。人形はあくまでも人形。魔力が察知できなくても不思議ではない。
『あくまで仮説です。本当に死神という可能性もなくはないです。昔おじ様が言っていました。死神は、負の感情に引かれやすいと』
ヨールドが言ったように、死神というのは負の感情に引かれやすく、歪んでいる状態の方が取り憑かれやすくなる。ラグクロの状態は、いわゆる歪みの状態。死神が召喚されても、おかしくはない。
『とりあえず、ラグくんのところへ向かいましょう。彼が心配です』
アリスが言うと、みんな頷きラグクロのところへ向かう。ラグクロのいる部屋まで駆けつけて、ドアを開けると、彼女の懐でラグクロは涙を流しながら寝ていた。
恐る恐る近寄ってみる。
『ヨールドさん、アリスさん。ラグクロを寝かせつかせました』
どうやら仮説は正しかったらしい。
少女はさっき召喚されたばかりで、ヨールドとアリスを知るはずがない。二人を知っているということは、ラグクロの感情は少なからずも入っているということになる。
『ありがとう。ところで、君はいったい』
『分からない。でも、みんなのことはなんでか分かるの』
『では、どこから来たのですか?』
『分からない。真っ暗なところで、誰かが泣いていたことだけ覚えてる』
恐らく真っ暗な場所で泣いていたというのは、ラグクロのことだろう。両親を亡くし、心を閉ざした彼の心の中なら真っ暗でも不思議でないし、内心泣いていてもおかしくない。
『やはり、ラグクロの負の感情から死神として生まれたに違いない』
『そんなことがあるなんてな。驚きだぜ』
『ほんとね』
『とにかく、教会に戻りましょう。今は、ラグクロの安否確認が最優先かと』
『そうですね』
六人は教会になるべく早く戻った。
教会に戻からすぐ、ラグクロをベットまで運び寝かせた。寝かせたあと、少女のことを聞きたかったのだが、少女はラグクロのそばを離れそうにないので、そっとしておいた。
そして残りの四人は、様々な感情を押し殺し昼食を作ったり、掃除したりして気を紛らわせていた。
♢名前
午後十六時過ぎ、ラグクロは目を覚ました。
なぜ教会に今いるのかと記憶を遡って、状況を理解したラグクロ。
『ボクは、泣いたまま寝たのか』
体を起こし辺りを見渡す。ふと、右手に感触を感じ、見るとそこには召喚された少女が寝息を立てて寝ていた。
みんなのところへ向かおうと立ち上がろうとするが、少女が寝ながらも手を優しく握りしめてくる。
驚いて再度、少女を見る。少女は涙を流し、「行かないで」と愛らしい声で何度も口にする。可哀想に思えてきたので、そばに寄り添うことにした。
『君も一人なんだね。大丈夫、ボクがついてるから』
少女は寝ながらもその言葉で落ち着いたのか、すやすやと寝始めた。
ラグクロは少し安堵して少女の頭を、ぽんぽんと優しく叩いた。少し叩いていると、ドアが開く音が響いた。ドアの奥から顔を出したのはアリスだった。
『起きたのですね。ラグくん!!…あっ』
アリスは、言われる前に少女が寝ていることに気づき、音を立てずにベットのそばの椅子に腰掛けた。
『体調の方は、大丈夫なんですか?』
アリスは、小声で体調を気にかける。あんなことがあったばかりだから当然か。
『ご心配かけてすみませんでした。恐らく、もう平気です』
『そうですか、なら安心です。リンゴを切ってきたのですが、食べますか?』
『ありがとうございます。いただきます』
朝から何も食べていないので、お腹が空いているラグクロは、アリスが切ったリンゴをものの数分程度で平らげてしまった。
『では、私はこれで失礼しますね。彼女が起きたら、私たちのところに来てくださいね』
『はい。わかりました』
食欲があることにアリスは安堵して、ドアの奥へと過ぎ去っていった。
再度少女を見ると、目をぱちぱちしながら目を開く。開いただけであって、まだ完全に覚醒していない様子だった。
だんだんと覚醒していき、目がきらりと輝かせる。綺麗で、透き通る目に思わず引き寄せられそうになる。
『おはよう。ラグちゃん』
『お、おはよう。えーと。名前は…』
『まだないの。だから…つけて名前。ラグちゃんのつけた、名前がいい』
少女は名前を持っていないらしく、ラグクロに名前をつけるよう要求してきた。ラグクロはそれから必死に名前を考え始めた。
『……シーシャ。って言うのはどうかな?』
『シーシャ!』
どうやら気に入ったらしいく、少しほっとした。ちなみにシーシャの由来は、アリスの母シーシェヤから来ている。
『とにかく、みんなのところに行こう。シーシャ』
シーシャをエスコートするため、手を伸ばす。
シーシャは満面の笑みで、ラグクロの手をとった。
『来ましたか。ラグクロ、体調は大丈夫かい?』
『はい。大体は…』
『早く席ついて。今日はご馳走よ』
『やったー』
………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます