第4話 そういうのをフラグって言うんだよなあ

5年ほど前、お隣に若夫婦が引っ越してきた。

旦那さんはものすごいイケメンで、奥さんはちょっとポヤポヤした感じのかわいい人だ。

この辺はまあ閑静な住宅街で、そこそこアッパーな人たちが住む。

つまりそこに越してきた彼らはいわゆる上級国民的な立場ではないかと類推される。

俺?俺は親が金持ちなだけだよ。

正直このご時世、自分がそこまで上に行ける気はしないけど、まあ学生のうちは親のすねかじりまくらせてもらうよ、限界までな!


年齢的に大きく離れてるわけでもないし、頼りがいのある兄貴分姉貴分みたいな感じで兄弟がいない俺の相談とかに乗ってくれたりして仲良くなった。

旦那さんは頼りがいのあるイケメンであるが、家庭内の力関係は奥さんが上で尻に敷かれまくている。

でもお互いを尊重しあってるのはわかるしとても幸せそうで、見ててほほえましい。

そのまま末永く爆発してほしい。

いろいろ落ち着いてきたし、そろそろ子供を・・・とか話してるのを小耳にはさんだ。

少子化の今、できたら5人くらい頑張ってほしいところだ。

俺たぶん結婚できないしな・・・。


そんな幸せそうな彼らだが、なんか過去にあったらしい。

何かはよくわからない、でもあまり良くない事であるのは分かる。

旦那さんに学生時代のことを聞いたらものすごい目が泳いで、話そらされまくったので多分その辺に何かあったんだろう。

触れないのも優しさだよな、必要なら話してくれるだろうし。

ただ、奥さんがちょっとだけ事情を漏らしたことがある。

苗字、奥さん側のらしい。

つまり、旦那さん側の家族関係が問題ってことなのだろう。

そしておそらく旦那さんの旧姓だろう苗字の人間を訪ねてくる人間が居たら、自分に一報入れてほしいできるだけ早く。と鬼気迫った顔で言われた。

俺はとてもお世話になってたし、そのくらいならと請け負った。


















そしてその日が来た。
















そのひとはとてもきれいな女の人だった。小さな子供を連れている。

コンビニにアイスでも買いに行くか、とペタペタ歩いてたところに声をかけられた。

「すいません、このあたりに〇〇さんという男性のお宅はありませんか?」

内心死ぬほど動揺した。

この日が来るなんて思わなかった。

よく考えてみたらこれ知らないほうが良かったのでは?とか今更気づいたが後の祭りである。

奥さんちょっと抜けてるからな・・・現実逃避である。

「あ、ご存じみたいですね。」

にっこり微笑まれた。

その時初めて目が合った。

とてもきれいな顔をしているが、ドブ川みてーな目をしてる。

これは関わったらアカンやつや。

そして秒でバレてる。

仕方ねえ、腹くくるか。

解決策をいくつか頭に思い浮かべる。

ひとつ、正直に話す。

論外である。とてもお世話になった人たちを売るのは後味が悪すぎる。

ふたつ、ごまかす。

さっきの反応からするとアタリをつけた上でここにきてることが推測される。

つまりごまかすのは無理だ。

みっつめ、なんとかする。

俺が何とかするんだ。幼馴染にフラれてクソ荒れてた俺の話を聞いてくれて落ち着かせてくれたあの二人の恩義に報いるためにも。前を向かせてくれたあの人たちのためになんとかするんだ。

よし。

やるぞ。



「知ってます、お知合いですか?」

「はい、この子はその人の弟なんですよ。お兄ちゃんに会わせてあげたくて。」

「弟がいたとか聞いたことないですね・・・ちょっと電話して聞いてみますね。」

かすかに震える汗ばんだ手でスマートフォンを取り出す。

どうでもいいが以前の話から名前を登録するのも避けたほうがいいだろうという配慮で、登録名は「奥さん」である。


ワンコール目で出た。

電話番号を教えてもらってから一度もかけたことがない俺からってことで、なんか察するものがあったらしい。

『きたのね?』

察しがよすぎる。

「はい。」

『ここからふた駅離れた〇〇って町あるでしょ?そこの駅前にハチヤアパートってアパートがあるんだけど、そこの301号室に引っ越したって言ってくれる?あの苗字で表札掛けて借りてるから。』

準備万全やんけ。

俺の決意を返せ。

「わかりました。じゃあそういう事で。」

『ありがとうね、落ち着いたらお礼に伺うから。』

「いえ、大丈夫ですよ。」

『あ、そいつ鞄に包丁入れてるから刺激しないようにね。普通に接してれば大丈夫だから。』

最後にやべえ情報投げてくるのやめろォ!

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