第14話 過保護な二人
ミエラに相談もせず反射的に「行きます」と言ってしまったが、これは良くないと思い直す。
「ヴィンセントさん、やっぱりミエラと相談させてください」
「ああ、もちろん」
聞かれたくない話もあるので、執務室の隣にある応接室を借りてミエラと二人で話をする。
「アロ、第四騎士団の団長さんって……」
「うん。母様の旦那さんだ」
会った事もないし、母様が俺の事を話しているとは思わない。だけど一応は義理の父親だし、ヴィンデル・アルマー子爵に何かあったら母様が悲しむ。
「俺はこの依頼を受けて救援に行く。ミエラは――」
「私も行くわ」
出来ればミエラにはじいちゃんと一緒に留守番していて欲しい。危険だし、俺一人なら「
ワンダル砦はここから徒歩だと20日前後、早馬でも3日はかかるのだ。あまり悠長な事は言っていられない。飛んで行けば半日もかからない。
ミエラを抱えて飛ぶとなると1日半はかかるだろう。決してミエラが重い訳ではなく、「
「でも――」
「アロはお母様のために行くんでしょ?」
「えっと、半分はそう、かな?」
「アロ言ったじゃない。私とアロは家族だって。だったら、アロのお母様は私のお母様でもあるわ」
え、そうなる……か?
「それに、アロを一人で行かせたら心配だもの。アロが強いのは知ってるし負けるとは思わないけど、無茶すると思うの」
なんだかミエラに言い包められている気がする……。
「それに、私だって役に立つわ!」
「いや、それは疑ってないけど」
ミエラは頑固なので、こうなったら何を言っても退かない。
仕方ない、ミエラを抱えて飛ぶか……。危ない時は俺が守れば良いし、いざとなったら移動には「
「
短距離なら、目視出来る範囲で移動可能だ。
前世で様々な場所に行ったが、1500年前の記憶で「
「……分かった。一緒に行こう」
「うん!」
結局二人でこの緊急依頼を受ける事に決め、再びヴィンセントさんの執務室へ。
「二人で受ける事に決めました」
「そうか……くれぐれも気を付けろよ? 危ないと思ったら逃げるのも冒険者には必要な事だからな?」
「「はい」」
それから報酬の話になった。ランク毎に分けられ、シルバー・ランクの報酬はパーティ単位で一律30万シュエル。命の危険が大きな依頼なのに安い。
「すまん……国の依頼なんてこんなもんなんだよ……」
これでは依頼を受ける冒険者なんて居ないんじゃないか?
と思ったが、依頼を達成、今回の場合は襲撃者の撃退だが、達成すれば多少の報奨金が与えられ(期待薄)、騎士団への勧誘や王国や貴族への仕官の道も開けるそうだ(余計なお世話)。
俺にとっては全く旨味のある依頼ではないが、安定した収入を求めている冒険者には良い話なんだそう。
「報酬が安い代わり、移動は楽だぞ? 国の転移魔法陣が使えるからな」
「「転移魔法陣?」」
「ああ、お前達は知らないか。主要な冒険者ギルドには、国が転移魔法陣を設置しているんだ。もちろん緊急時以外に使ったら罰せられるけどな」
そんなものがあるなんて……前世では見た事ないな。自分で転移できるから汎用性に興味がなかった。仕組みが分かれば面白そうだ。
「明日の朝、他の冒険者と共にワンダル砦に送る。それまでに準備しておけ」
「「分かりました」」
その日の狩りの成果を受け取って、じいちゃんの待つ借家へ帰る。
「と言う訳で、明日の朝からワンダル砦に行ってくる」
「そうか。アロ、あんまり目立つんじゃないぞ?」
「一応、魔族20人くらいと魔獣が1000匹以上いるって話だけど」
「はっ! アロの心配なんてするだけ無駄じゃ。儂が心配なのはミエラだけじゃ。ミエラの可愛い顔に傷でも付けたら……アロ、分かっておるな?」
「あ、はい」
じいちゃんは俺の実力を全然疑ってないらしい。ミエラについては年々過保護になっている気がする。
そのミエラは、俺とじいちゃんのやり取りをニヤニヤしながら見ていた。
「おじいちゃん、私がアロを見てるから安心して!」
「おぉ、そうじゃな。アロ一人だと大魔法で一挙に殲滅とかしそうじゃからの。ミエラがちゃんと抑えてくれるじゃろ」
……なんでバレた。誰が撃ったか分からないように、こっそり「
「アロ、大魔法を使えば必ず王国から目を付けられる。使うなとは言わんが、どうしようもない場合以外は極力控えるのじゃ」
「……分かった」
「お前、使うつもりじゃったな?」
「え? いやいや、まさか」
じいちゃんから睨まれる。このじいちゃんは俺の心を読めるんじゃないかと幼い頃から思ってる。
それとも、今世では考えが顔に出やすいのだろうか。
「……まぁ良い。お前達、ちゃんと食料を持って行くのじゃぞ?」
「えっ? 食料なら砦にあるんじゃ」
「いや、包囲されとるんじゃろ? 補給は絶たれておる。備蓄分は騎士団で食べるから、冒険者には回って来ん」
考えたらそうだな。聞いておいて良かった。食料は魔法袋に多めに入れておこう。水は魔法で出せるから問題ない。
「ミエラも、矢は出来る限り持って行きなさい。どうせアロの魔法袋で運ぶんじゃ」
「うん、分かったわ」
もう陽も暮れたが、明日の為に少し買い出しに出かけた。
魔法袋の中は時間経過がないので、新鮮な肉や魚、野菜、今日の朝焼いたパンを大量に買う。二人なら2週間は持ちそうな量だ。
正直、本当に危なくなったら俺の「
次に武器屋に行って、ありったけの矢を買った。その数500本。矢と食料で30万シュエル使った。この依頼は完全に赤字だな。矢は消耗品で、依頼が終わっても余りは狩りで使うから良いだろう……と自分を納得させる。
「アロ……たくさんお金使わせちゃった……」
「いいって。思う存分弓を射ってね」
ミエラは「
今回の依頼は「
全ての用意を済ませた俺達は家に帰り、翌日に備えて早めに眠りについた。
翌朝。指定された時間にギルドへ行くと、見慣れた顔があった。
「アロ殿! ミエラ殿! おはようでござる!」
「「おはようございます」」
ゴールド・ランクの拙者少女ことアビー・カッツェルさんだ。
「アロ殿達も依頼を受けたのでござるな。拙者、アロ殿達の戦いを間近に見られると思うと胸が躍るのでござる!」
朝からテンション高いな、この人。「手合わせを!」と迫って来ないだけマシか。
俺達とアビーさん以外には10人ほどしか居ない。その中には、咢の森初日に声を掛けてくれた「アクリエム」の5人組も居た。向こうも気付いたようで目礼しておく。
「よし、集まったようだな! ついて来てくれ」
ヴィンセントさんに案内され、ギルド2階の一室へと入る。魔法で厳重に施錠された部屋で、床に魔法陣が描かれている以外、何もない部屋だった。
「転移先は砦の地下。向こうでは騎士か兵士が待っている。到着したら指示に従って動いてくれ」
俺達全員が転移魔法陣に入ると、ヴィンセントさんが床に手を着いて魔力を流し始めた。って言うかマスターがやるのか。
魔法陣が青白い光を放つ。
「全員生きて帰って来い!」
ヴィンセントさんの声がした次の瞬間、視界が真っ暗になった。
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