第23話 私の立場

「今回のことで、レッドの役に立てているならいいですけどね」

 受粉のことに話を戻す。

 どうも私のことを応援してくれているようなのは嬉しいのだけど、その恋が成就するには問題が山積みなわけでして。


 イリーナさんはヴォーダン様の偉い神官なのだけど、本当にいいのかしら?

 私の体内の邪神の骨をなんとかしないうちに、二人の恋が盛り上がっちゃったら困るんじゃないかな。

 でも、邪神の問題解決しない限り、堅物過ぎるレッドがその気になることは絶対ないってことなのか。


 よーし、見てろよ。私の魅力で虜にしてみせる。と、意気込みたいところだけど……。

 今の自分はどう見ても男の子だしな。こんな格好じゃアピールが難しい。

 まてよ。

 よく考えたら、レッドの好みを知らないな。意外と少年っぽいのがお気に入りだったりして。


 もしかすると、ちょっと前の時代のマールーン国の流星王みたいに女性にあまり興味がないのかもしれない。

 そのせいで流星王には後継者が居なくて、傍系の王族が跡目を争って現在に続くマールーン国のゴタゴタの原因にもなったんだよなあ。

 レッドも女性を寄せ付けなくなることを案じて、多少なりとも関心を示す私をキープしておこうというのがイリーナさんあたりの思惑なのかもしれない。


 一応は周囲から見ても私は脈ありということなのかな。

 だとしたらいいのだけどね。

 本当に腹の立つことに、レッドのやつ、これっぽっちも、そういうそぶりを見せないからなあ。

 あ、お兄さんの件があるから余計に慎重になっているのもあるんだろう。

 そりゃ前王が色狂いじゃあ、おいそれとは女性に手を出せないよね。

 私に恋人や夫がいないのは好条件なのだろうけど、代わりに邪神がもれなくついてきます。いらねー。


 色々と考えてしまうけれど、最終的には、私の中に邪神の骨が無ければな、というところに行きついてしまう。

 黄金の林檎のことで昆虫召喚魔法が少しは役に立てているようなので、ただ迷惑なだけということでもないのだけど。

 先ほど顔を見せた国務卿のジーレンさんも、言葉少なめながら私に感謝の言葉を述べていた。


「本件への協力は感謝する」

「ああ、うん。まあレッドのためだから」

「確かに我々は陛下という船に乗る運命共同体ではありますね。今後もよろしく」

 その船から強制的に下ろそうとした人は誰でしたっけ?

 言いたかったけど我慢した。私、えらい。


 近衛隊長のサイモンさんなんかは、もっと直接的に私のことを褒めてくれる。

 ただ、途中からは何かを思い出したように急に距離を置く感じになった。

 えええ、なんで? すごく気になるじゃないか。

「どうかされたんですか?」

 質問するが、言を左右して、仕事が残っていると去ってしまう。


 密かに気分を害していたので、その後やってきたシルフィーユさんについ苦情をぶつけてしまった。ちょうど今ならイリーナさんは席を外していて都合がいい。

「こう言ったらなんですけど、サイモンさん、よそよそしくて感じ悪かったですよ」

「ああ、それはねえ……」


 シルフィーユさんは顔を寄せてくると耳打ちをした。

「陛下から、キャズさんとあまり親しくするなって釘を刺されたみたい」

「それはどうしてです?」

「うちの夫って私が言うと嫌らしいけど、女性に人気なのよ。聖騎士だしね。どうもそれで、夫が近くに居るせいでキャズさんが心動かすと困ると思ったんじゃないかしら」


 確かにサイモンさんはとてもカッコよくていらっしゃる。

「僕だって妻帯者は遠慮しておきますよ。ましてやシルフィーユさんの夫だし。そこまで愚かじゃない」

「じゃあ、陛下に直接そのセリフを言ってあげて。きっと安心するわ」

「邪神に関りがある僕が、王国の高官にちょっかいを出したら面倒だというのはわかりますけど……」


「そうじゃなくて、陛下はキャズさんに悪い虫がつくのが嫌みたいよ。本人ははっきりとは口にしないけどね。まあ、今は立場上口には出せないでしょうし、それは許してあげてね」

「許すもなにも僕は厄介ものですから」


「もう、そうじゃないの。陛下はキャズさんのことを相当気に入ってて、他の男性の目に触れさせたくないのよ」

「またまた~。それじゃ、まるでレッドが僕のことを好きみたいじゃないですか」

 シルフィーユさんは驚いた顔をした。


「もちろんそうよ。まあ、これは私の想像だけど」

「え?」

「だって、こんなお茶会なんて開いたことないもの。キャズさんの無聊を慰めるために開いたというだけで私には分かっちゃったわ。うちのもそうだけど、この国の男は愛情表現が下手なのよ。でも、これなんかは分かりやすい方じゃないかしら」


 私がツツハナバチを飛ばすためにここに居るというのを知っているのは、レッドとイリーナさんの他はごく限られた高官だけなのだろう。

 そりゃ暗黒魔法を使っているなんて知っている人間は少なければ少ないほどいいに決まっている。

 だから、傍目には私を歓待するお茶会と見えるわけだ。

 誰が何をどこまで知っているのか、私にも分からなくなりそうで混乱する。

 そうこうするうちに、とりあえず、受粉はつつがなく終わった。


 この日以降は、城の中を探検し、書庫での資料探しを手伝い、たまにレッドをゲームでやっつけるという平和な日を過ごす。

 町へ出かける許可がなかなか下りないことを除けば、まあまあ充実している日々だったと言えるかもしれない。


 一か月ほど資料探しをした結果、ダンクリフの城には邪神の遺骨に関する資料はなさそうだという結論になった。

 書庫の半分ほどを見終わった段階で、自由都市アヴァロニアの稀覯本収集家への打診をしていたらしく、その返事が到着する。

 条件に該当しそうな本が二冊あるということだった。


 

 

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