変身ステッキは、光らない。
K.night
第1話 運命の出会い
ある日、運命にであった。そう思っていた。就職氷河期で内定が取れない中、面接までの合間に涼をとろうと本屋に入った。入ってすぐ、平積みにされている小説があった。「朧月小夜」という人の小説だった。これがデビュー作らしい。元々小説は好きだ。手に取って読んでみると、吸い込まれた。
美しい文体だった。水に水彩を落とすみたいにふわりと色づくような、そんな世界観に魅了された。すっかりはまって読んでいると、書店員さんに声をかけられた。
「今、本を買うと本人のサインがもらえますよ。」
見てみるとすでに64Pだった。バツも悪い。今の出費は痛手だけれど、続きも気になる私は書店員さんに誘われるままサイン会へと足を運んだ。
朧月小夜さんは美しかった。見目が美しいわけじゃない。長い髪は少し癖があるし、小さい目などは地味な印象がある。だけど、オーラがある人だった。群衆の中にいても、すぐに目が行くような。
「買ってくれたのー?ありがとう!」
小夜さんは破顔という表現がぴったりなくらいの笑顔を見せてくれた。
「就活中?」
私の服装を見て小夜さんが言った。
「あ、はい。」
「きっと大変だよね。この本が少しでも癒しになるといいな。」
「あ、途中まで読んだんですが、すごい、よかったです。なんか鮮やかな水みたいに透明感があって。」
「素敵な感想!ありがとう!お名前なんて言うの?」
小夜さんが本の表紙を開いて聞いてくる。
「あ、鈴木晴香です。」
「晴香ちゃんね。漢字は天気が晴れるに、かおる、かな?」
「そうです。よくわかりましたね。」
「なんかそんなイメージだなと思って。」
小夜さんは綺麗な字で私の名前とサインを書いていった。
「就職先、どういうところを狙ってるの?」
「え、あの。」
「ごめん、もしかして今そういう職種とかない感じなのかな。」
「小説家!」
「え?」
「私、あの小説家になりたくて。」
小夜さんも驚いていたが、言った自分が一番驚いていた。確かに、私は小説が好きだし、実際にちょっと書いたりもしていた。だけど小説家になりたいなんて、そんな大それたこと思ったことなかったはずなのに。
「なれるよ。」
小夜さんは言った。私の手を握って力強く言った。
「私がなれるんだもん。絶対になれるよ!」
「はい!」
私も力強くうなずいた。興奮して外に出ると今までとは全く景色が変わっていた。
初めて、自分の意志でなりたいものを見つけた。その感動が体中駆け回って私は初めて眩しい自分の未来をみた。
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