第10話 ウェディング その4

 泣いている私を見て青葉君はすぐに行動した。成川ラインの社員の中で、残業している社員を買収。


 それは、会社の詐欺情報を共有してくれれば赤沢グループの社員として働かせるというもの。また、物事が終わるまでは屋敷にかくまった。


 それは両親にこのことがバレないようにするためだ。


 買収した社員は全員で5人。その中には顔見知りの女性社員がいた。


 1年目の新入社員で真面目に残業をこなしている永原なつみさん。


 なつみさんは客間で私を見ると驚く。


「嘘! 水火さん、社長令嬢の水火さんですか? 事故死したのでは?」


 どうやら社員から私は事故死したとお父さんから聞いていたようだ。私はなつみさん達に事情を説明する。


「そんなことになってたんだ……私はお父さんが雇った用心棒の人達に殴られて捨てられたの……それで……」


 思い出すのは嫌になってこれ以上は話したくない私に対してすいかさんは話始める。


「分かりました。無理に話さないでください。事故死ではないのですよね。むしろ無事でよかったです。実は社内で社長が水火さんをって噂があったのです。ですが、そんな噂が広まったおかげで噂を流した者が遺体で発見されましたが事故死として処理されまして」


 私も青葉君もなつみさんの話を聞いて理解した。お父さんは噂を流したものを亡き者にしていると。


 私はもう両親に対して同情もなにもない。青葉君には徹底的にやってほしいとお願いする。


「ここまでひどいなんて……青葉君。私の両親は徹底的にやって」


「うん、それはいいんだ。でも水火の妹さんはどうしよう。ここまでの話だと妹も被害者でしょ?」


「それなんだけど……妹の月についてはお父さんとお母さんが捕まった時に考えればいいよ」


「分かったよ」


 なつみさん達は成川ラインの情報を全て青葉君に提供した。


 次の日、青葉君はお義兄様を通じてマスコミに流した。


 お義兄様は赤沢グループ傘下で忠誠を誓っているマスコミと繋がっている会社を利用してマスコミにリーク出来る。


 そのため、お義兄様に裏の情報が洩れればひとたまりもない。その力で他の会社に対して圧力をかけていた。


 こうして、その日のうちに私の両親は逮捕され成川ラインは倒産。しかも取り調べを行った結果、情報屋でも社員達でさえ知らない余罪が次々と出てきた。


 しかも妹の月もその1つである他人の家の物の盗みに加担していたのだ。月はまだ中学生とはいえ、警察の取り調べを恐れたのか、署を抜け出しては銃を盗み警察の追手をかいくぐっては逃げ続ける。


 そして、最後は警察においつめられると、公園にいた5歳くらいの女の子を人質にとった。


 月は銃を持っているため警察も動けない。この情報はすぐに報道され、私と青葉君の耳に入った。


「月……なんてことを……」


「月って水火の妹さん?」


「うん……まさかお父さんと結託して悪事をしていたなんて……」


「でも彼女はまだ中学生だ。反省すれば保護観察処分ですむはず」


 月が犯した罪は盗みだけで殺人は犯していない。それに彼女はお父さんの詐欺のことまでは知らない。お父さんと共謀して用心棒を雇い私を殺そうとした罪はあっても、それに関しての情報を警察は知らない。


 とにかく説得してやめさせようと考える。


「私……止めてくるよ……」


「何言っているの? 彼女は銃を持っているよ。撃たれて死ぬかもしれないよ」


「だから何なの? 私は一度死んだようなもの。今さら死ぬことは怖くない」


 私は執事に指示を出して車を出すように言う。青葉君も呆れながらその車に乗る。


「青葉君も行くの?」


「水火にもしものことがあったら僕は辛い……」


「ご……ごめん……」


 青葉君は私の両手を握る。


「いいよ。水火を不安にはさせないって約束したしね」


 私と青葉君を乗せた車は月のいる公園へ向かった。


 一方で月は女の子を人質に取りながら銃で警察を威嚇した。


「動くな! 一歩でもそこから私に近づいてみろ! このガキをやるぞ!」


 しかし、月も今は中学生とはいえ、女の子。空手で体力があるとはいえ、長い時間このような状態では肉体的にも精神的にも疲れてくる。


 そろそろ限界というところで私と青葉君が公園に到着した。私は月の前に出ると、月を説得する。


「月!」


「えっ? お姉ちゃん? どうして? 用心棒共にやられてそのまま死んだんじゃ……」


「月……それを警察がいる前で言ったら自供したようなものだよ。お父さんか教わらなかったの?」


「ふざけるな! なんで馬鹿で私以下の姉が生きているんだ!」


 私が現れて逆上する月。私は説得を諦めない。


「月、それ以上罪を重ねないで。全部知っているの。月も詐欺の事は知らなかったんでしょ? それに犯罪もお父さんの指示でやっただけ。無理矢理だったらきっと大した罪じゃない」


「そんなの……じゃあ私はどうすればいいいの? お父さんもお母さんも捕まっちゃって……一人ぼっちで……」


 下を向いて泣き出す月。銃を撃つ気力も残っておらず、後ろに集中出来ていない。


 そんな状況を警察が無視するはずがなく、月は捕まって女の子は保護された。

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