第4話 資産家とのデート

 デートとはいっても、資産家のデートは普通の人が想像するようなデートではなかった。


 赤沢グループの会長の次男である青葉君は将来を期待される後継者の1人として認識されており、青葉君と常に行動を共にしている私も婚約者候補として重要視されていた。


 屋敷内では青葉君の婚約者は既に私と決まっているような吹聴ぶり。


 とはいえ、まだカップルのようなことをしていない私と青葉君。婚約者ならばデートはしたいところ。


 青葉君は喜んで受け入れた。でも行動は自家用車。運転手の執事が車を運転し、後部座席に私と青葉君という感じ。2人っきりで歩いてお出かけのイメージではないためデートらしくない。


それでも私のお目当てであるプライベート用とお仕事用の衣服が欲しいため、赤沢グループ傘下の衣服屋へ私達は向かう。


 その衣服屋の地下駐車場に着いた。車から降りると、私と青葉君は別の車で乗ってきていた数人の黒服の護衛に守られながら行動する。


 どう考えてもこれは2人っきりのデートじゃなくて楽しめない。


「ねえ青葉君……」


「どうしたの?」


「この人達はそばをはなれないよ」


「僕たちの護衛だからね。グループの御曹司である以上は常に命を狙われているから」


「それでも私達が気づかないところで見張ってくれるだけでいいんじゃない? せっかくのデートなのに……」


 私は青葉君と2人っきりのデートを望んだ。1ヶ月も青葉君と行動していて、2人っきりになった事があるのは部屋にいるときだけ。ちなみに体の関係はない。それでも青葉君のお世話をしていくうちに私は青葉君を彼氏と見ており、結婚前提でお付き合いしたいと考えている。


 それも命を助けられたから、一生彼のために尽くしたいという理由が一番の理由。


 でももう1つ理由があって、それは彼が幼い感じなのにクールな顔つき。彼のクールなしゃべり方。そして彼のコーデ。彼改め青葉君の全てが好きだった。


 だからこそ、私は青葉君と結婚したい。そのために2人っきりの時間を作って青葉君に私の気持ちを分かってほしい。そんな気分だった。


「水火……分かった」


 青葉君はそんな私の気持ちが分かっているのかは分からないが、私の意見を受け入れ、護衛を退散させた。


 退散させたから敵の刺客が来るかと思っていたが、そんな気配はない。


 私は地下駐車場からエレベーターで1階に上がる。1階の出口を出て青葉君と建物を見る。


 そこはまさに、10階建ての大きなお店だった。チェーン店ではないようだが、交通会社関連の駅の宣伝で建てられたようで、駅とも繋がっているお店。


 しかもフロアごとにジャンルの違う衣類がそろっているようだ。


「すごい……この建物全部赤沢グループのお店?」


「そうだよ。僕が信頼している交通会社の社員が店長をやっているんだ。貸し切りにする暇はないけど護衛はいるし、店員は僕らの味方だから安心して」


「うん……」


 私は青葉君と衣服を調達する。


 いざ来てみれば私達は歓迎されている。それどころか洋服担当の女性店員さんは、青葉君が私と一緒にいることに驚き質問している。


「ご次男様、もしかしてその方は?」


「言いにくいんだけど……僕の婚約者……候補の方」


「ああ……候補……なのですね。婚約者ではないのですね」


 こういう時、私はどう返したらいいか分からない。青葉君は私に配慮して候補と言っている。


 そんなことで噂が立ってしまわないようにするための配慮だろう。


 でも私はそんな嫌な噂があっても青葉君と結婚したい。そのためなら何だってしたい。


 家族から受けた屈辱、悪仲間達に裏切られたことに比べれば大したことはない。


 そこで私は青葉君をフォローするつもりで言う。


「候補といっても……筆頭ってところです。でもライバルも多いから……」


「ライバルですか。ですがあなた様のような凄い自信のある方ならばライバルなど敵ではないです」


 口数が少ないが内気でない感じのせいで店員さんからは凄い自信がある人だと思われた。


 そんな話に青葉君が口をはさむ。


「そんな話はよしてくれよ。自慢出来るもんじゃない。特に僕みたいな御曹司の立場の人間はグループに支障を出すほどのものだ」


 青葉君のことが好きなのは私だけじゃない。私のライバルと呼べる女は結構いるはず。


 だからこそ、私が知らない青葉君に恋している人達に嫉妬心を与えないような配慮は必要だと思う。


 でも、今の私は青葉君の独占欲を持っている。だからこそ青葉君に衣服の格好で認めてもらいたい。そんな気分だった。


 青葉君が男性の衣服コーナーに夢中になっている隙をついて、私は店員さんに青葉君が気に入るような衣服はないかを聞く。


「どんな格好を……したらいいですか?」


「婚約者筆頭様がお好きな衣服はありますか?」


「私の好きな服で青葉君が納得するなんて……それに婚約者筆頭様はやめてください。私の事は水火。水火が名前です」


「かしこまりました。水火様、ご次男様は何よりも女性の方が好むファッションを第一と考えます。ですからこういう場合は水火様がお好みのお姿となられるべきです。それによりご次男様は水火様の性格、印象、気持ちなどを理解してくださいます」


「分かりました……じゃあ……」


 私が好きな格好はなんといってもクールでかっこいい感じ。ヤンキーだった時代のチャラい格好に出来ないかと私は店員さんに相談した。

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