第2話 資産家の次男

 あれからどれくらい時が経っただろうか。私が目を覚ました時、見たこともない部屋のベッドで寝ていた。


 車に乗るところで意識を失っていたから、そこから先の記憶がない。


 立ち上がろうにも力が入らない。そんな時に1人のメイドさんが部屋に入る。


「お目覚めですか?」


「えっ、ああ……」


「かしこまりました。ご主人様をお呼びいたします」


 メイドさんはすぐに部屋を出てご主人を呼びに行った。メイドと言えば、どこかの町でキュンキュンするような萌えだと思ったが、意外と紳士だった。


 本物のメイドというのはああいうものなのかと思った。


 そんなことを考えていると身長150センチくらいの男子がやってきた。白いシャツに高価な黒いジャケット、グレーのスラックスを身に着けた小学生のような感じだ。おまけにクールな目つき。


「目が覚めたの?」


「あっああ……」


 私にとって幼さと可愛さでキュンとなった。これは恋なのだろうか。それにこの子は意識を失う寸前で私に声をかけてくれた子だ。


「緊張しなくていいから」


「あのさ、私を助けてくれたのは……」


「もちろん僕さ。雨の中で倒れていたところを車で見ていてさ」


「ありがとう……」


 緊張と恋で思うように話せない私。掛け布団で顔を隠す。


「寒いの?」


「ええと……その……」


「薬湯を用意するよ」


 男子はメイドに指示を出して私のために薬湯を用意してくれた。


 その薬湯というのが茶色くて濁っている感じ。私にとって飲みたくないって思い青ざめる。


「見た目が悪いよね。でもこれが体にいいんだって」


 私は恐る恐る飲もうとする。味は苦い。吐き気がする。


 そんな私を見た男子は私の背中を撫でる。


「大丈夫?」


 声をかけられて背中を撫でられると、私は落ち着くどころか全身に電撃が走ったかのような感覚がした。


 そのせいで心臓が痛くなり苦しくなる。


 それを見た男子が誤ってくる。


「ああ、ごめんなさい。いきなりでびっくりしたよね」


 男子はいきなりベッド側にある椅子に座り込んで黙り込む。


「いや……そんなことは……ない……」


 私は男子に安心させる言葉をかける。


 それよりも何を言っているんだと思う私。出会ったばかりの相手なのに両親や妹、悪仲間なんかよりも信用出来ると思っていた。


 黙り込んでいる男子に私は声をかける。


「あのさ……私は買える場所がなくて、お金もないんだ」


 これに男子は反応する。


「そうなんだ。それはかわいそう……」


 私は男子の言葉に涙を流しこれまでのことで怒りがこみ上げる。


 それを見た男子はとっさに私に謝る。


「あっごめんなさい。僕って余計なことを。これまで辛かったんだよね。僕に出来ることがあったら言ってよ」


「なんでよ……どうして私なんかのために……初めて出会ったどこの誰なのかも分からないチンピラのためなんて……」


「僕にも分からない。どうして君を助けたのか。でも無視なんて出来なかった。運転手のじいにも雨の中で止められた。だけど君をほったらかしなんて出来なかった」


「君じゃない……」


「えっ?」


「水火……成川水火! それが私の名前……」


 震えながら泣いて自己紹介をする私に男子は私の手を握る。


「水火さんだね。僕は青葉、赤沢青葉。資産家で名のある赤沢グループ会長の次男。こうみえても18歳なんだよね」


 まさか私よりも年が上だなんて思っていなかった。


 私は身長が低く小学生らしい18歳の男子に恋をしていた。そして結婚できる可能性を感じた。


 今の法律で女性は16歳、男性は18歳で結婚できる。


 私は今は15歳だけど、今年の夏には16歳になる。つまり私と青葉君は結婚しようと思えば出来るというわけだ。


 でも問題は私と青葉君の立場。


赤沢グループは旅行会社や交通会社、航空会社といった様々な旅行関連の会社を経営しているグループ。そんなグループの会長の次男ということは、王国の第二王子のようなもの。


 そんな御曹司とチンピラの私なんてどう考えても天と地。結婚にふさわしいはずもない。


 私は布団から飛び上がって土下座してしまう。


「すっすいませんでした! 私のようなチンピラが赤沢財閥の御曹司なんかにタメ口なんかを」


「いいよいいよ。知らなかったんだし。それからさ、これからもタメ口でいいし敬語も使わないで」


「でっですが!」


「僕がいいって言ったらいいの。それに僕は次男。兄様がすでにこの屋敷を継いでグループを継いでいるんだ。それに兄様は既に結婚していて子供だっている。僕に後継なんかめぐってこない」


 青葉君は悲しい感じだ。私は青葉君に救われた恩がある。恩返しをしてあげたい。


「あのさ、私にできることがあったら言ってよ。メイドのお仕事でもいいし、危険な仕事でもやるからさ」


「危険な仕事は女の子にやらせられないよ。それにメイドの仕事と言っても兄様が承諾するか?」


 私は強気になって青葉君を見る。


「ダメ……かな?」


「ダメではないと思う。兄様に相談してみよう」


 とはいえ私が着ているのはボロボロの学生服。こんな格好で青葉君のお兄さんには出会えない。


 そこで私は青葉君のメイドさんから私服を貸してもらうことに。


 その服は結構かわいいドレス。正直こんなドレスは私には似合わない。


 でも青葉君のお兄さんに出会うならばちゃんとした服装でなければならないため、仕方なく着るのだった。

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