黄金に反射するその顔は
れれあ
第一章
「このように、人類と金化人種が対立を深めたのは2105年からで...」
いつものように窓際の席で授業を聞いている。いい加減金化人種の人権問題の授業はためにならないからやめてほしいのだが。
そんなことを心の中で思っている。
金化病、それは文字通り体が黄金になってしまうことだ。世間では金化病にかかった人のことを金化人種と呼んでいる。
この現象が起きたのは2095年、今から34年前のことだ。突如として日本各地で体が黄金になる現象が多発した。
この現象が起きた原因などはなく、どのようにして体が黄金になっているのかというのもまだ解明されてはいないそう。
体が黄金になる、本当に不思議だよな。体の一部が黄金になった人の体験談を聞くと、重さなどは全く感じず、それでいてその一部がものすごく硬くなるのだという。
この金化病を発症している日本人は日本の人口の10分の1程で、毎年50万人程の人が亡くなっているという。
だがこの数値には大きなずれが生じている。実際に記録として亡くなっている人の数は50万人だが本当はその倍の約100万人弱が亡くなっている。
なぜかって?それは金化人種の迫害と人身売買によるものだ。
金化人種が生み出す黄金はその人の体重の1.5倍の金を生み出すという。
体重によって生み出す量が変わる、これで何が言いたいか分かっただろ?
金化人種を過度に太らせ、金としての価値を高めるために家畜として扱っているということだ。これが近年日本で問題視されていることだ。
だがこの現象により日本は世界で金の生産量が世界一になったんだ。これが指す意味は日本の政府が全力で金化人種の家畜化を全面的に支援しているということだ。
最近はそれがばれ始めて金化人種の人たちがデモを起こしたり建物を破壊したりするという行動に出てしまった。まぁそりゃそうなるよな。
この対立のせいで日本の都市部や市街地が崩壊しているんだ。
俺が今通っている学校もおんぼろの校舎で授業をしている。生徒数は全校で90人。ほとんどの中高生は仕事をしている。
今日もなんの出来事もなく学校が終わりそうだ。
「なぁなぁ今日市場で格安の食材入るらしいんだけど、行かね?」
「ごめん今日も仕事」
「そっかぁ。じゃあまた今度な!」
今俺にしゃべりかけてきた男っぽい口調の女は藤宮鈴乃。俺の幼馴染だ。こんな終末世界みたいな環境でも笑顔で暮らしてる高校2年生、俺より一個上だ。正直あいつの性格にはいろいろと助けられている。両親が亡くなったときもあいつはそばにいてくれたし。
そう俺には両親がいない。二人とも金化人種となってしまい、気づいたらいなくなっていた。小学4年のころの出来事だった。正直実感湧かなかったよな。
で、途方に暮れていた俺と妹を引き取ってくれたのが今俺が通っている学校の担任の教師、灰原先生だ。
俺ら一家は俺と先生の収入で何とか生活をしている。
俺らは現在の日本の惨状に目を背けながら仕事をしている。本当にこのままなのだろうかと毎日思っている。
「ただいま」
そう俺が言った途端、妹がすぐに駈け寄ってくれた。
「お帰り兄さん」
妹の歌波、中学1年生。この家の家事全般は歌波がやってくれている。
「帰ったぞー」
そういいながら玄関に上がってきたのは灰原先生。
「奈美ちゃんおかえりなさい」
そう、妹は灰原先生を下の名前で呼んでいる。灰原先生は俺とはさほど年は離れてなく、25歳だ。
「ご飯できてるからみんなで食べようよ」
そう妹が言い、みんなで夜食を食べることにした。
日本各地でデモなどが起こり、都市や市街地がスラム街化してるというのは一部で、ほとんどは人間が暮らせる程度には整備されている。
だが最近の日本は変わりつつあると俺は思っている。普通の人たちも金化人種の扱いには疑問を抱いていたし、何より平和主義をうたっている日本が平和とはかけ離れた国になっていくのが耐えられないのだろう。
だがデモで建物が倒壊してもすぐに復旧できる程の金を日本は持っている。
ということはまだ金化人種で黄金をとり、儲けているというのは変わらない。だからデモ活動が終わらないんじゃないか。
「奈美ちゃん、金化人種ってどのくらいの額で取引されるの?」
「んー、それは先生にもわかんないかなー」
そう、実際にどのくらいの額で取引されているのかは一般市民にはわかっていない。
「そういえば錬斗、今日私の授業ずっとさぼってたでしょー」
急に何を言い出すかと思ったらそのことか...
「だって先生の授業理科だから何もわかんないんだもん」
という感じのいつもの会話を楽しみながら食事をしている。
「速報が入りました。午後8時10分に金化人種によるデモ活動が行われました。なお、このデモ活動による負傷者はまだ出ていない模様です」
これもいつもの光景だ。
いくら破壊活動をしなくなったからと言ってデモ活動をやめるとは言っていない。
「最近多いよね、デモ活動」
「先生、なんでか知ってる?」
俺はそう先生に問いただしてみた。
「噂だけどね、最近金化人種の寿命が短くなっているっていう噂があるんだよ。原因は不明だけどね」
金化人種はここ数十年、発症してから死ぬまでの期間が大体決まっていた。その期間は5年から30年。
個人差はあるようだが大体このくらいの期間だ。
「科学者によるとね、日本人の遺伝子に何らかの悪影響が発生したかららしいよ」
先生はそう言った。
「なんで日本人だけなの?」
妹が不思議そうに答えた。
「日本人というよりは日本の国土が影響しているっていう考え方があるって言われてるよ」
なぜ先生はこんなにも知っているのか。
「へえー、奈美ちゃんは物知りなんだね」
「へっへっへ、伊達に教師やってないからね」
俺も金化人種のことにはかなり昔から興味があった。なにせ両親が死んだのは金化人種の症状のせいだからだ。
俺の両親は進行がかなり早く、二人とも最短の5年で死んでしまったのだ。
だから俺は将来、この金化人種の研究をして少しでも命を助けたいと思っているのだが...それを先生に言うと「じゃあまずは理科をしっかり勉強しないとね!」と、言われるのが日常になりつつあった。
俺はその晩のニュースを横目で聞きながら少し早く寝室に潜った。
翌日
「なぁなぁ、今日仕事ある?」
「いや、今日はないけど...」
「じゃあちょっと付き合ってくれよ」
そう鈴乃に言われついてやってきたのが
「ここって、大倉庫?」
「お前前から金化人種のこと気になってたって言ってただろ?」
「そうだけど」
「ここに30年前の金化人種についての記録が残ってるってよ!」
30年前と言ったら金化人種の症例が出てすぐの時代じゃないか。
俺はすぐに倉庫内を歩き回った。
そうして探し始めること15分...
「おい!あったぞ!」
そう鈴乃に言われてすぐに駆け寄った。
「これは...」
この資料に目を通してみた。
そこから出てきたのは30年前の金化人種に対する扱いの酷さと、金化人種の腕や足などを折り、儲けている人の様子が淡々とつづられていた。
「ひっどいな...」
鈴乃が唖然としている。
無理もない、俺らが教えられてきた歴史とはかなり違うものが羅列されていたのだから。
「帰ろう」
俺は情報量の多さに脳が混乱していた。
「しっかしあんなに昔はひどいとは思わなかったよな」
「俺はちょっと気になるところがあった」
「どんなところだ?」
「あんなにひどい迫害や人身売買が行われていたのにどうやって今の状況まで運べたのかがよくわからないんだ」
あんなにひどいことをされておきながらデモ活動だけでおさまっているのが不思議で仕方がない。
「私聞いたことあるよ、金化人種の人たちだけが集まっているところがあるって。それもかなりでっかいらしいよ」
「俺初耳なんだけど」
そんな会話をしながら帰路についた。
「先生、金化人種の人たちだけのところがあるってほんと?」
「ほんとだよ。そこではしっかり経済も回ってるし、物資もしっかり自給自足してるって。」
それはもう一つの市ではないだろうか。
「錬斗さあ、金化人種のことが気になるなら行ってみれば?」
「はあ?何言ってんの危ないだろ」
「大丈夫だってーそこの区長の人かなりいい人っていう噂もあるほどだし」
「そもそも入れるの?」
一般人の俺を入れるほど警備が甘いわけがない。
「必需品だけ持って武器もっていかなければ入れるらしいよ」
「らしいらしいって、根拠はどこにあんのさ」
「噂で聞いただけだって」
正直気になってはいる。金化人種だけで物資を自給自足して経済を回してるぐらいだから、少なくとも数十万人はいる。
「どこにあるのそれって」
「お?行く気になった?」
先生のこの性格にはいつも困らされている。
「場所はね...」
翌日俺はすぐに出発した。
ちょうど涼しい時期というのもあり、絶好の旅日和だ。
俺はちょうど18歳で免許を持っている。だから車で移動することにした。しっかりと飲食は持ってきているし野宿する用のテントも持ってきている。
俺が住んでいるところは旧千葉の野田市。先生の情報によると金化人種の町は岐阜の南のほうにある。かなり長い旅になりそうだ。
俺はこんな遠出をするからにはちょっと寄ってみたい場所があった。昔栄えていたといわれている旧浜松市に行った。
静岡はかなり山道が多く、起伏が激しかった。すぐ隣には富士山が見え、動物たちが顔を出すこともしばしば。
そんな光景を目に焼き付けながら走ること野田市から大体7時間、旧浜松市に到着した。
途中迷子になることもあったがやっと到着した。ここは金化人種の破壊活動で完全に廃れてしまった街の代表例みたいなもんだ。
電気は通っていなく、水道も通っていない。もちろん人もいない。
だが俺はこういう終末世界みたいな風景は嫌いじゃない。
ビルには苔が生え、動物たちがそこらへんでうろついている。
なぜ俺がここに来たかったかって?それは、この街で初めて金化人種の症例が起こったからだ。
俺がこの先金化人種について研究をするならば一度は来たほうがいいと思っていた。ここからすべてが始まってしまったから...
余韻に浸るのもこのくらいにして出発しよう。俺はそのまま金化人種の街まで直行した。
走ること約4時間、道に迷いに迷ってやっとたどり着いた。
これはまあなんと、本当に一つの市があるじゃないか。
「でっけえ...」
俺は思わず声がこぼれた。
入り組んだ山道を抜けると見えてくるこの街、山の上から見るに普通にそこら辺の街より大きい気がする。
俺はさっさと山道を下った。
「要件を言え」
厳しそうな門番が俺に問いただしてくる。まあそうやすやすと入らせるわけないか。
「少し街を見て回りたいんですけど」
俺は車の中から顔を出して言った。
「出ろ。荷物検査をする」
そう言われ俺は外に出て何も危ないものを持っていないことを証明した。
やはり外から来る人は警戒するよな...俺は荷物検査が終わっても再度荷物検査の繰り返しでなかなか入らせてはくれなかった。
「よし、いいぞ」
約10分、荷物検査をされた。こんなことは今後ないだろうな。
閉じていた門が開いた瞬間、俺は別世界を見ているのかと錯覚するほど眩しい反射光に顔を照らされた。
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