根森さんの隣は眠れない
136君
第1話 俺は眠れない
昼下がりの教室。先生が黒板に文字を書く音が響いている。あと、ノートとシャーペンが擦れる音とページをめくる音と、寝息とか。
「すぅ〜すぅ〜」
俺の隣の席に座っている女はいつも寝ている。休み時間こそ起きているが、それもその前の時間のノートを写すためであって、決して起きようとしているからではない。
もちろん、授業中に起きることは無い。授業が始まってものの数秒でダウンして、授業終わりのチャイムで目を覚ます。その寝顔があまりに可愛いので、一部男子からは天使様と呼ばれていたりする。
まあ、そんなことは置いておいて、なぜ俺が眠い目を擦ってまで起きているかだ。元々は授業態度がいい方ではなかった。眠たくなったら寝てるし、そうじゃない時はスマホをいじっていたりしていた。そんな俺がなんで急に授業態度がよくなったか。
その理由は1週間前に遡る。
―1週間前
その日のホームルームは席替えだった。前日に引いたくじの発表。スクリーンに映し出された席の場所に移動する。
俺の席は窓側から2列目の1番後ろ。寝るには当たりな方の席だ。どうせなら1番窓側が良かったなぁなんて儚い願いだ。なんせ俺だから。
えと、隣の席は…根森さん。あぁ、あの根森さんか。一部男子に人気っていう。まぁ、俺にとってはそんなの関係ない話だが。
パッと見、そこまで悪そうではない女子だ。茶髪の前下がりボブ、右側のもみ上げを刈り上げていて、髪を耳にかけているからその部分がよく見える。制服は当たり前のように着崩していて、カッターシャツの第一ボタンは外していて、羽織っているクリーム色のカーディガンの袖は肘の辺りまで捲られている。スカートは結構折りたたまれていて、足を組めば太腿の付け根まで見えそうだ。
そんな格好をしているが、多分根はいい人なんだと本能が言っている。
「よろしく、根森さん。」
「ん?あぁ、迷惑かける。」
彼女とのファーストコンタクトはこれだけだった。彼女はそのまま寝てしまい、俺はただそれを見ているだけだった。
次の日、1時間目が終わったときのことだ。
「ふわぁ〜!沖田くん、ノート見せて。」
「は?」
「『は?』ちゃうやろ。見せて!」
申し遅れたが、俺の名前は沖田実人。そこら辺のしがない高校生だ。
別に見せない理由がないのでノートを見せる。
「ありがとね。次もよろしく!」
「お、おう。」
こいつ、起きてる気ないんだな。そう思った。
そして、次の時間。暇な授業だったので、つい寝てしまった。いや、寝ようとしたのではない。ただ、気がつけばまぶたが重くなってきて、気がつけばまぶたが落ちてきて、そして、夢の国へダイブしてしまっていただけなのだから。俺は悪くない。暇な授業をした先生が悪い。
チャイムが鳴るなり、
「見せて。」
と根森さん。当然でしょと言わんばかりの顔で言ってくる。けど、俺もノートを書いてない。
「ごめん。俺も寝てた。」
「ッチ(あんたしか頼める人いないんだから。)」
「最後なんて?」
「…何もない!しょうがないなぁ、次の授業で追いつくかぁ。次からはちゃんと取ってよ。」
「ごめん。」
こうして、俺が寝れなくなるのが確定した。
―そして現在
「ノート見せて。」
「いい加減起きろよ、アホなんぞ。」
「これでも私の方が頭いいから、単細胞くん♡」
「ッチ」
さっきの古文の授業のノートを見せる。彼女に見せるようになってから、ノートは綺麗にまとめるように心がけている。色はあまり使わないけど、どこがどうなってどうなっているのかの流れはちゃんと見て分かるようにしている。
「さっきの先生の授業より絶対こっちのノートの方が分かりやすいわ。」
「お前、授業聞いてないだろ。」
「出だしのおもんなさだけで、授業のおもんなさが分かるようになってきたから。」
「それが睡眠の理由にはなってないくせに。」
んなこと言っているが、彼女がなぜ毎時間寝るのか、訊いたことがない。なんか訊いてはいけないパンドラの箱のような気がするから。
「ほんとありがとね、毎時間毎時間。ふわぁ〜、あと5分で睡眠時間♪」
「おい、起きろよ、たまには。」
「ええ〜っ!やだ!」
そう言って、根森さんは寝る姿勢に入る。まったく、いつになったらまともに授業を聞いてくれるんだろうか。
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