第23話



 この日、私はバタバタしていた。写真館の電話が珍しく鳴り止まず、対応に追われていた。



 カランコロン。



 電話対応しながら、写真館のドアが開いた音が聞こえた。



(飛び込みのお客さんかな?)



 カウンターには佐藤さんが待機している。表の様子に少し気を取られながら、電話の対応を続ける。




「婚活写真、撮っていただきたくて。」



 優しげな女性の声が聞こえ、ぴくりと反応してしまう。私と同じオーダーについ興味が湧いてしまう。暫く、佐藤さんと女性の楽しそうな会話が交わされていた。



 電話も終わり、カウンターの方へ出ようと立ち上がる。しかし次の言葉が耳に入り私の身体は硬直した。




「本当に可愛いですね。」




「……っ!」




 全身の血の気が引き、身体の芯まで冷えていくようだった。私の頭には佐藤さんと初めて会った時の会話が蘇る。





「す、すみません。ホームページを見て来ました。……こ、こ、婚活写真を撮ってもらいたくて。」



「お姉さん、婚活するの?こんなに可愛いのに?」




 可愛いなんて言葉、お客様へのリップサービスのようなものだ。それに私たちの関係は未だ微妙なもので、佐藤さんが誰に可愛いと言っても私が何か思うことは可笑しなことだ。




 それなのに私の身体は上手く動かず、次の電話が鳴るまでぼんやりと立ち尽くしていた。





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