幸せな一生

村崎愁

第1話 病院、意識

「おはようございます松崎さん。わかりますか?」

 カーテンが開く音が聞こえる。

 光が眩しい。白い天井が見えた。


 なぜここに居て、なぜそうしたのだろうか。所々しか思い出せない。


 看護師が朝食を持ってきた。

「松崎さん、ICUから出て二日目ですよ。」

「記憶があまりありませんが、僕は何故ここに居るんですか?」

「後ほど医師から説明がありますので。」


 時間が経たない。窓際のベッドで外の景色を見た。

 ここは家の近くにある総合病院だ。


 頭が痛い。外を見ていると昼食が運ばれてきた。

 食べ終わり一、二時間後に医師がベッドに来た。

 手には袋が持たれ、大量の乱暴に裂かれた薬の空きシートが入っている。


「松崎さん、どこまで記憶はありますか?」

「何もありません。」


 医師は袋を目の前に出し、「松崎さんはこのサイレースという睡眠薬を約30錠程飲み首の頸動脈を自分で切ったんですよ。」

「どうして、わかったんですか?僕は一人なんですが…。」

「窓に血が飛んで、近所の方から通報が入ったそうですよ。」


 確かに家は一階の借家だ。近所の方とも交流がある。

 うっすらと大量の人が窓を割り入って来た記憶が戻ってきた。

 恐らく警察と消防だろう。


 首には包帯が巻かれており、今の状態はわからない。

 どの程度深く切ったのだろうか。

 窓に血が飛ぶくらいだから、余程なのだろう。


「ゆっくりと思い出すと思うので、ゆっくり過ごしてください。」

「退院はいつ頃になるんですか?」

「傷が深いので四、五日後になるでしょう。」


 それだけを告げ医師は去って行った。

 目を閉じる。眠りにつくしか時間が経たない。


 目を開けると夕方が過ぎていた。

 夕食が運ばれてくる。朝昼と同じく味気がしない。

 眠りにつけないと言うと薬を看護師が持ってきた。

 薬を飲み、一時間程で意識が消えた。


「太一君の事が好きになったの。」

 太一は僕の幼馴染だ。それを告げたのは妻の恵美で夕食時だった。


「太一君の子供、できてるから優紀と別れたい。」



 目が覚め飛び起きた。寝汗が酷い。

 そうか。恵美が不倫をしたんだ。


 それからどうなったんだろう。まだ思い出せない。

 思い出そうとすると頭痛がする。

 恵美と徐々に会話が無くなり、会社でもうまくいかなくなり精神科に通うようになった。

 それからうつ病と診断され不眠症になり薬を処方されている。

 一か月分を一気に飲み、それで首を切ったのか。


 どこか他人事に感じる。

 まだ夜は明けそうにない。再び目を閉じた。

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