出立

犬屋小烏本部

第1話 別れの日

ある日、少女が旅立った。

春を未だ待つ、息も白く凍る冬の日だった。







彼女はその日、学校を卒業した。学を修め、友たちとの別れを惜しんだ。

恩師に頭を垂れて感謝の意を表し、涙すら流した。


幼い少女が描いた青春という記憶は、人生の中ではほんの一瞬にすぎない。しかし貴重でかけがえのないものである。

大人になってから、彼女はきっと何度も何度も思い出すだろう。苦しく辛い時ほどあの頃はよかったと振り返るだろう。それだけ時間を、彼女はその学舎で手に入れることができたのである。




彼女は母校となった学校をあとにした。

卒業式の日は、彼女が入学した日と同じように青空を桜の花弁が舞っていた。卒業証書を手に校舎を去る彼女の姿は、数年前よりも大人びていた。





その日、彼女は暗い夜道を一人で歩いていた。

打ち上げと称して学校にも近いファミレスで彼女は同級生と飲食をしていた。集まった仲間たちは誰もが気が置けない友人たちだった。授業や部活が同じで、互いに切磋琢磨しながら学生生活を送ってきた。

安価なフリータイムの飲み放題を使い、これが最後だからと楽しい時間を過ごした。多少会話の声は大きくなってしまったかもしれない。だが、他の客に迷惑のかからない範囲で彼女らは羽目を外した。喫煙も飲酒もしなかった。何の問題もなく時間は過ぎていった。

問題があったと言えば、終わった時間が少しだけ、遅い時間となってしまった。それだけだった。


最後だから、最後になってしまうからと彼女らは話を終わらすことができなかった。一緒にいられる時間を惜しみ、子どもでいられる時間を惜しみ、彼女らは別れの言葉をなかなか口にすることができなかった。

結局時間は押しに押して、最後は誰かの携帯にかかってきた親からの着信でお開きとなった。


彼女の家は学校からも、打ち上げを行ったファミレスからも近かった。だから、多少遅い時間になったとしても迎えはいいと彼女は家族に伝えていた。その通りに彼女は一人で夜道を歩くこととなった。

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