愛娘のダンジョン配信を陰で支える無自覚最強パパ ~こっそり素手でドラゴンを始末する様子が全世界に流出してしまう~
なっくる@【愛娘配信】書籍化
第1話
「え~いっ♪」
ぽすっ
ボウガンから放たれた矢がスライムを貫く。
「やったぁ!」
スライムを倒したことを確認し、自分の身体の半分ほどもあるボウガンを抱えてぴょんぴょん跳ねる狼耳の少女。
「よくやった!」
「応援ありがとう、ぱぱ!」
満面の笑みを浮かべて手を振る少女を、ドローンと手持ちカメラで余すことなく記録する。
彼女の名前はキーファ。
ダンジョン配信プロデューサー(キーファ専属)を務める俺、大屋 拳斗(オオヤ ケント)の愛娘である。
*** ***
世界中にダンジョンが出現して20年近く。
ダンジョン探索者は一般的な職業となり、彼らがもたらす”魔石”と呼ばれるアイテムは、人類の文明を支えていた。
<うは~、今日もキーファちゃんかわいい!!>
<少し背が伸びた?>
<ここって上位ランクのダンジョンじゃない? くれぐれも気を付けてね>
カメラに取り付けたスマホに、フォロワーのコメントが流れる。
「こらこら、あんまりキーファを脅かすんじゃねーよ。
俺のキーファなら楽勝だって」
「えへへ~、ぱぱがサポートしてくれるからだよ~」
「キーファ……!」
いじらしいセリフに感極まった俺は、キーファをぎゅっと抱きしめる。
「ぱぱ~♡」
ボリュームのあるもふもふの銀髪の感触は最高で、全ての疲れが吹き飛ぶ。
<また始まった笑>
<でもこれがいいんだよな~、最近ハードな配信が多いから癒されるわ>
より良い魔石の獲得を目指す探索者とは別に、ダンジョン探索自体をコンテンツとして配信するダンジョン配信者が近年増えていた。
俺とキーファもダンジョン配信者の端くれである。
<キーファちゃんねる、もう少しフォロワー増えてもいいんだけどな>
<可愛いけど、ダンジョン攻略内容が地味だからねぇ>
<キーファたんの良さはワイらだけが分かってたらいいのよ>
「あうぅ、キーファのこともっと宣伝してね?」
<うおおおおおおっ!?>
フォロワーたちの反応に苦笑する俺だが、キーファちゃんねるのフォロワー数は現在2000人ほど。トップクラスの配信者は百万人を優に超すらしいので、まだまだ俺たちは駆け出しレベルだ。
「それよりお前ら、キーファに”ポイント”投げてくれよな!!」
<はいはい>
<投げ銭よりダンジョンポイントが欲しいとか、パパは変わってるよな~>
パラパラとフォロワーからダンジョンポイントが投げられる。
フォロワー数が伸び悩んでいるせいか、期待より少ない。
(うむむ……)
ダンジョンポイントはステータスアップやスキルの習得などに使えるので、いくらあっても困らない。
だが、俺がダンジョンポイントを求めるのはそんな理由じゃない。
キーファのステータスを確認した俺は僅かに焦りを感じてしまう。
(あと800日分か……)
(よし……!)
フォロワーを増やすため、もう少し派手な戦闘シーンも必要かもしれない。
「キーファ、このフロアは安全だから、10分ほど休憩しててくれ。
ほら、おやつもあるぞ」
「は~いっ!」
背中に背負った携帯クーラーボックスからプリンを取り出すと、キーファに手渡す。
「あ~、今日はマンゴープリンだぁ♪」
ぺりぺりと封を開け、歓声を上げるキーファ。
キーファの食事シーン(通称ぱくぱくキーファ)もウチのちゃんねるの重要コンテンツである。
「よし、今のうちに!」
俺はドローンを護衛モードに設定すると、現在潜っているダンジョン:ドラゴンズ・ネストの下層フロアに降りていくのだった。
……ネットで適当に探したダンジョンだが、厨二くさい名前だよな。
*** ***
「そらっ!」
ドンッ!
眼前に出現した一つ目巨人をパンチ一発で吹き飛ばす。
図体はデカいが、俺のパンチで倒せるくらいなので大したことないモンスターなのだろう。
だが見た目が怖い。
キーファが泣いちゃうかもしれないからな……安全なダンジョン探索の為、あらかじめ危険要素を取り除いておくのがパパの仕事である。
「え、は?」
「レッドサイクロプスを一撃、で?」
巨人の足元には、二人の女性探索者が座り込んでいた。
「良かったら使いな」
ごそごそ
よく見れば剣士らしき女性は右足をケガしている。
慌てて転んだのかもしれない。
俺はポーチから緑色に輝くポーションを取り出すと、女性に手渡す。
「ええええっ、LV5ハイポーション!?」
「い、いいんですかっ!?」
彼女は驚いているが、ただHPを回復させるだけのアイテムだし、バフ効果もない。
こんなアイテムで喜んでくれたところを見ると、この女性たちも俺たちと同じ駆け出し探索者なのだろう。
俺のポーチには回復アイテムがぎっしりと詰まっている。
大事なキーファに怪我をさせるわけにはいかないからな!!
「ご安全に!」
だんっ!
俺はダンジョンの床を蹴ると、下層フロアの奥へと急いだ。
*** ***
「むうぅ……」
襲い来る雑魚モンスターを右ストレートで吹き飛ばしながら(やはりこのダンジョンのランクは低そうだ)俺はスマホでキーファのアカウントを確認する。
ダンジョンポイント残高:126(+30)
「くそ、これじゃ1日分にしかならないぞ!?」
思った以上にダンジョンポイントの集まりが悪い。
キーファの詳細ステータスを表示する。
========
氏名:大屋 キーファ
年齢:8歳
種族:ワーウルフ
HP:200/200
MP:30/30
攻撃力:80
物理防御力:200
魔法防御力:200
魔力:20
必殺率:30
LP:803日
LV1格闘(ひっぷあたっく)
LV1射撃(ボウガン)
LV1魔法(テンションアップ、防御力強化)
レアスキル(にこにこキーファ)
========
8歳という年齢を考えれば、なかなかの強さと言えるのだろうか。
「そんなことよりも……」
俺が気にしているのはLP(ライフポイント)という項目。
これは……キーファの寿命なのだ。
特殊な種族の血を引く彼女がこの世界で生きていくには、特別なエネルギーが必要だった。
「ステータスの一種だから、ダンジョンポイントを使って回復できるのは助かるけどな!」
どがっ!
焦りのままに、近寄って来た石像モンスター(ガーなんとかという名前だった気がする)を右ストレートで粉砕する。
俺とキーファが配信を始めたのは、彼女を生き永らえさせるため。
「だがっ……!」
ダンジョン配信者の競争は激しく、思うようにフォロワーを伸ばせない俺たちのダンジョンポイント収支は……赤字になっていた。
グオオオオオオンッ!
苛立つ俺の前に、緑色の鱗を持つトカゲ型モンスターが現れる。
さすがに俺でも知っている。ドラゴンだ。
だがコイツは修飾語が何もつかないプレーンのドラゴン。
つまり雑魚ドラゴンという事だ。
「くそ、フォロワーを増やすには、やっぱ派手な配信をしないと!!」
だがそうなれば、キーファを危ない目に合わせる事になる。
「うらああっ!!」
深刻な二律背反。
激情のままに、俺は右の拳をドラゴンの腹に叩きつける。
ドンッ!
ドラゴンは光と共に消え去り、緑色の魔石が地面に落ちる。
俺は魔石目当ての探索者じゃないので、正直興味はない。
「う~ん、さっきのガーなんとかという石像なら、キーファも怖くないかなぁ……?」
配信の続きを考えながら、俺は上のフロアに戻った。
「…………え、ドラゴンを素手、で?」
「もしかして……おにい、ちゃん?」
俺が吹き飛ばしたドラゴンの足元に、とある有名探索者がいたのだが……この時の俺は気付かないのだった。
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