星の手紙
日香莉
第1話 あの子がいなくなった
キミは今、なにしてる?
私は今、なにしてる?
電車が近づく轟音と強すぎる風の音が響くと、今でも鮮明に思い出す。
あの日のことを。すべてが変わったあの日のことを。
もし、キミがいなくなったあの日がなければ、私の今は無かったのだと思う。
高校の卒業式終わりの日曜日。
その始まりは、突然だった。
「プルルルルル…。プルルルルル…」
「わっ、誰?」
家中に響き渡る突然の呼び出し音に私はビクッと一瞬身体をふるわせる。
3月半ば。暖かな春の陽気に包まれて、ぐっすりと眠ってしまっていたためにまだパジャマ姿の私はパタパタとスリッパの音を立てながら慌てて固定電話の通話ボタンを押す。
「もしも…」
「あ、楓ちゃん⁉」
電話固有のあいさつを言い終える前に声が飛び込んでくる。
その声の大きさに耳がキーンと鳴り、思わず顔をしかめる。
「あ、おばさん?どうしたんですか?」
その声は、幼稚園からの幼馴染で親友の立花美月の母の声だった。
昨日の卒業式でも会ったばかりだから耳が覚えている。
「美月、美月知らない⁉️」
だがその声は、昨日聞いたような気品があって穏やかな声ではなく、緊迫した様子だった。
一瞬で尋常じゃないことに気付き、胸がバクバクと鳴り響く。
「知らないですけど…。なにかあったんですか?」
「いないのよ!朝起きたら探さないで下さいって手紙が置いてあって…!」
「本当ですか!?」
驚きで、思わず手の力が抜け、受話器を落としそうになる。
美月とは昨日会ったばかりだ。
その時はそんな事を言っていなかったし、そもそもいつもと変わりなく見えた。
あの美月がまさかいなくなるなんて…!
真面目で品行方正。その言葉が似合いすぎる美月がいなくなるとは到底信じがたい。何かの間違いでないかと考えているうちに気が付けば、息をするのも忘れていた。
「昨日までもいつも通りだったし、美月の行きそうな所、調べたんだけどどこにもいなくて。私、どうしたら…」
おばさんの声が、まるで穴の空いた風船みたいにどんどん小さくなっていく。
電話越しでもかなり困惑してることが伝わる。
今にも泣きそうな感じだ。
「…おばさん、落ち着いて下さい。私も、そっち行きますから」
自分でも意外なことに、私はすぐに落ち着いた。
でも、多分美月がいなくなったのを信じられないだけなんだろうな。
そんな事を考えながら、買ったばかりの春物コートをはおって走って美月の家を目指した。
「お邪魔します…」
来客用のスリッパにはき替えて木製のリビングの戸を開ける。
立派な門と白い外壁に包まれた6LDKの大きな一軒家。初めのころは美月の家に来るたびにこの広さに毎回びっくりしていた。でも、今ならわかる。美月の家は代々この町を受け継いできた旧名家。小さなこの町では立花家の名は誰だって知っている。
「あれ、楓ちゃん来てくれたのか」
部屋の中心に置かれた高級感ただよう黒の革張りのソファには美月のお父さんが座っていた。
筋肉質の体で、いつもニコニコと私を迎えてくれる。
が、今日はぐったりとした様子でやつれていた。ところどころに白髪が生えているのも見える。
「はい、美月がいなくなったって聞いて….」
「あぁ。楓ちゃん何か知らないかな?」
「いえ…。昨日も元気そうで」
そういえば…。
頭の中で最近の美月のことを思い出している中で、違和感に気付いた。
「元気過ぎ…?」
思えばここ一ヶ月くらい、美月は異常に元気だった。
受験のストレスから開放されたのかと思ってたけど…。
「あの、おじさん!」
私はこぶしを握り締めて美月のお父さんに声を掛けた。
「美月の部屋、行ってもいいですか?」
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