怪談蒐集 百妖箱
菜月 夕
第1話怪談蒐集 第一高校新聞部 その1 「百妖箱」
T県立第一高校。このマンモス高校の新聞部では絶賛、企画会議が行われていた。
「次号あたりから夏だから学校の七不思議をコラムでシリーズ連載しようか」
「去年もやらなかった?」
部長の神薙さんが始めたけれど御厨さんが遮った。うん、ボクもそう思うよ。
「今まで取り上げなかった様なマイナーな物とかは?」
「だからそのマイナーな話ってどこに有るのよ」
「それを作り出すのが新聞部!火の無い所に大火事を起こすのよ」
そんな話が続いて、結局ボクの所にネタ出しを押し付けられるのだった。
第一高校新聞部。歴史は古くてここが他の高校との統廃合でマンモス高校となる以前からの部なので長いのだが、最近はこの手の活動は敬遠されて実際に活動しているのは部長の神薙さん。副の御厨さん。イラスト担当の影の薄い日影さん。パソコン担当で校正の安曇さんと取材兼つかいっばしりのボク・新藤の5人っきゃいない。これで部としてやっていけるのはその他大勢の名前だけ借りた幽霊部員がいるからだ。
そんな幽霊部員ばかりで構成された新聞部が心霊ネタなんて笑えない。
家に帰っても頭が重い。そんなレアなネタならとっくに使われていてもおかしくない。
話半分で後は膨らませるにしても、その大元がなぁ…。
暗い顔で居間に行くとお爺ちゃんが来ていた。
「どうした。浮かない顔だね」
そこで事情を話すと「そうだなぁ。怪談なのかどうかは判らないが、さまよう百葉箱伝説なんてのがあったな」
お爺ちゃんの話しを聞くと。昔、学校が火事に遇った事が有るのだが、学校の校庭の片隅に有った百葉箱の辺りは焼けなかったのに、それだけが見当たらなかったらしいのだ。
その百葉箱は日直の先生たちが記録を取って気象データとして提出していたのだが、データを報せる必要も無くなった頃、日直の学生に任せるようになった時期があったのだそうだ。
そうして使われていた百葉箱だが、次の日直に想い人がいた生徒がラブレターの受け渡しに使って願いが叶ったという噂がたってそっちの目的に使われるようになった。
しかし、百人目の人がラブレターを入れた後に火事が起こり、受け取るべき人が亡くなった。百葉箱が消えたのはその想い人を探しに行ってしまったのではないかと噂がたった…。
そんな話だった。
うん、それなら面白そう。早速、企画にまとめて提出してみよう。
そうして放課後の部室。その話を始めた。
この話で、百葉箱がその人を探して迎えに来るとか、どうでしょう。そう、提案した。
「え、百葉箱?それなら今朝も校庭前の木の下に有ったわよ」副部長の御厨さんが言い出した。
他の誰もそんな物は視ていないと言い出した。
その時、部室のドアがノックされた。
こんな話の時にタイミングが良すぎる。みんな一様にギクッとしなが扉に向き、顔を見合わせるので下っ端のボクがドアを開けた。
そこには誰も居なかった。
風の音だったのかな。ボクは副部長に振り向きながら話の続きを始めた。
「百葉箱が迎えに来た人は忘れ去られるなんて良くありそうですね」
ボクはなんとなくつけ加えて、ふと何か忘れているような不思議な気持ちになった。
皆もボクの言葉に何故か周りを見ていたけれど副部長の安曇さんがそれを振り払うようにテンションを上げて「それ誰が伝えたのよ。もう都市伝説じゃない。みんな知らない筈なのに伝わるなんて。でも面白そうだから、今回はそれにしましょう。次のネタもよろしくね」
たった4人しかいない弱小部は今日も忙しい。
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