第16話「夢の中の推し」1/2
「無理だったー!!」
バターンと勢いよくベッドに寝転がる。
クーラーが効いた自分の部屋で、コンサートチケットが1枚も当選しなかったことに撃沈する。
今は夏休み中。
トモセくんの熱愛騒動はすっかり消え、平穏な日々。
三上愛瑠ちゃんの一部過激なファンたちがトモセくんの公式ブログを炎上させたこともあったけど、それもなんとか収まったみたいだ。
トモセくんは配信で話してくれたとおり、9月まではコンサート以外の芸能活動をお休みにしている。ちなみに、配信もお休み。(寂しすぎる)
最初は配信は続けると言ってたけど、受験に集中したいと変更したのは多分ブログ炎上以上のトラブルを避けるため・・・とファンは言ってるけど、実際はわからない。
ちなみにボクの夏休みは去年と一緒。
午前中は部活、午後はバイト、以上。
少し変化があるといえば、3年が引退したからその引継ぎでボクは副部長になった。部長は女子だけどボクより漢らしくて夏休み中に行われる剣道の大会で優勝候補だったりする。
おかげで練習メニューがハードになって毎日筋肉痛だ。
バイト先は短期の新人さんが入ってー・・・と、こんな平凡すぎる夏休みでいいのだろうか。
「配信で会えない分、コンサートがなによりの楽しみだったのに。ボクの日々の励みだったのにぃー」
神様、あんまりだ。
枕に突っ伏して半べそかいてると、あずくんからラインが。
『僕も撃沈。こーなったらコネを使うしかない』
へ? コネ?
それはいわゆる、あずくんのお姉さんのことだろうか。
お姉さんのことをよく思っていないあずくんが、お姉さんにお願いをするとはとうてい思えない。
ラインで聞いてみるけど、返事が返ってこなくなった。
「ダメだー、今年の夏休みは終わったー」
ボスッとスマホをベッドに投げ、そのまま睡魔に負けて寝落ちした。
「うわっ、電気つけたまま寝ちゃった!」
ガバッと起き上がると、そこは自分の部屋じゃなく白い世界の夢の中だった。
「寝ちゃったことには変わりないか」
ふぅとため息をついて立ち上がる。
「アキ」
青い声に呼ばれ、顔を上げるとトモセくんが少し先の方で座っていた。
そうだ!
コンサートで会えないけど、ボクには夢の中でトモセくんに会える!
ぱぁぁと希望の光が心に差し込む。
「珍しいですね。ボクより先にいるなんて」
駆け寄ると、大好きなトモセくんのはずなのに何かがおかしい。
「どうかした? アキ」
「あ、えーと・・・なんていうか」
違和感がなんなのかじっと見つめるボクに、トモセくんが戸惑った笑顔を浮かべる。
昨日は会えなかったから1日ぶりになる。一昨日(おととい)にはなかった違和感とは。
今日のトモセくんはTシャツに短パンと、夏らしい格好だ。ボクと変わらない格好だからアイドルを取れば本当に男子友達だ。
「すみません、ボクの気のせい・・・」
ボクの気のせいだと言いかかけたところで、トモセくんがやたらと髪を撫でつけてることに違和感が。これか?
「あ! トモセくんの髪が!!」
びっくりしすぎて思わず推しに向かって指をさしてしまった。
気づかれたことにトモセくんがバツが悪そうな顔で、
「跳ねてるのわかる? 家にいるからってアイロンしてなくて」
手を放すと、毛先が跳ねた。
よく見ると、いつものストレートヘアーじゃなくて、全体的に毛先が跳ねている。
か、かわいいー!!
柔らかそうな髪が跳ねてて、まるで、軽くパーマをかけてるように見える。
触りたいっ。クシャクシャってしたいっ。
「き、今日は仕事だったんですか? モデルの撮影とか」
「違うよ、この髪型地毛なんだ。ネコっ毛に毛先が跳ねてて・・・。嫌だからいつもアイロンで真っすぐにしてるんだけど、家にいる時は面倒くさいからこのままなんだ」
「もったいない!」
「え?」
「すごく似合ってますよ! 癒し系のトモセくんにぴったり!」
「・・・そう、かな」
「はい!」
戸惑っていたトモセくんの顔が少し照れて、ありがとうと言いながら微笑んでくれた。(尊いっ)
それにしても痛恨のミス。トモセくんの地毛がネコっ毛&くせ毛だったとは。
でも、こうやって夢の中で見れてるわけだから、自分で忘れているだけで情報としては知っているはず。
目が覚めたら久しぶりにトモセくんデータファイルで確認しよう。
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