第14話「恋人発覚」1/2

 それは授業中のこと。


『今日一日、SNS見ちゃダメ』


 あずくんからだ。

 先生の目を盗んでスマホを見ると、あずくんから変なラインが。

 今日一日SNS見ちゃダメってどういうことだろう?

 首をかしげながら視線を黒板に戻す。



 授業が終わり、トイレに行った帰りに廊下でクラスの女子たちの会話に足が止まる。

「ラヴずのメンバーが熱愛発覚したとかって、今、ネットですごい騒がられてる!」

「えー、誰?」


 ラヴずのメンバー?!


「名前なんだっけ? 最年少の・・・カイとかならわかるんだけど、いつも隅にいるから印象薄くて」

 数人で会話している女子のひとりの言葉に、ボクの心臓がドキリと跳ねる。


 最年少、印象薄いって言ったら・・・。

 嫌な予感がしながらも、名前が出なくてマゴマゴしてる女子に教えたくてうずうずしていると、よくとおるオレンジ色の声がすかさず「トモセくん」と言った。

 思わず声の主を確認すると、男子に人気の浜村さんだった。

「木山知世(きやまともせ)とか言う人でしょ。その人が熱愛発覚したの?」

「美羽、よく知ってるねー」

「え! ともよじゃないの?!」

「知世って書いてともせ、らしいよ」

「知らなっかったー! 美羽、なにげに詳しいー」

「やめてよ、あたしアイドル興味ないし。オタクっぽい女子が話してるのたまたま覚えてただけ」

「そのトモセがアイドルの三上愛瑠(みかみあいる)とできてるらしいよ~」

「ヤバー。てか、愛瑠ちゃんもなんでキヤマトモセ?」

「ねー」

 ケラケラとおかしそうに笑う女子たち。

「芸能人の恋愛なんて興味なーい。どうせすぐ別れるよぉ」

 浜村さんがそう言うと、他の女子たちも「そうだね」と口を合わせだし、メイクの話題へと変わった。


 ついつい聞き耳を立てていたボクも、教室へと歩きだす。

 あずくんがSNSを見るなとラインしてきたのはそうゆうことだったんだ。

「・・・」

 トモセくんに熱愛発覚? アイドルの三上愛瑠ちゃんとできてる?

 うん、大丈夫。

 芸能人のこうゆうスクープはよくある。あずくんは先に知ってたからボクが傷つかないようにラインしてくれたんだろうけど、筋金入りのアイドルオタクのボクには心構えがしっかりできてる。

 ショックじゃないわけじゃないけど、トモセくんだって普通の高校生男子だ。恋のひとつやふたつする時もある。

 今までまったくそうゆう浮いた話が出なかっただけ立派だ。

 トモセくんを推す前に推してたアイドルたちを思い出せばこれくらい・・・うん、熱愛報道が怖くて推し活なんてできない。それも織り込みずみで推してるんだし。

 うん、大丈夫。 想定内だ。


 と、思いつつ、気になる気持ちが止まらない。

 歴史の授業中に先生の目を盗んでスマホをひたらすいじって情報収集に励んだ。

 スクープ記事をいくつか読み漁ったり、あずくんの忠告を無視してSNSを覗いたり。

 何が知りたい? 何が重要?

 騒がられてる話が本当か嘘か。出回っている画像が本物か合成か。

 トモセくんのファンとして、見抜かなきゃいけない。

 


 ピンポーン。

 呼び鈴が鳴り、玄関を開けると学ラン姿のあずくんが立っていた。

 驚くボクを見て、あずくんが不機嫌そうな顔で、

「行くって言ったよ」

「まさか本当に来るとは思わなくて。もう夜の10時だし」

「アキこそ今日はバイトじゃなかったっけ? バイト先行ったら早上がりしたって」

「バイト先まで行ったの?! ラインしてくれればよかったのに」

 とりあえず上がってと、あずくんを家の中へと招く。

「あずくんだー! アキのために横浜から来てくれたの?! 優しいー!」

 リビングから愛理姉さんがやってきた。

「夜分遅くお邪魔します」

 めったに見れない礼儀正しいあずくんが、愛理姉さんに向かってぺこりとお辞儀する。

「夕飯は? 食べてないなら用意するよ、アキが」

 美紀姉さんまで出てきた。

「あずくぅん、今日は泊っていってねぇ」

 珍しく百里姉まで出てきた。

「一晩お世話になります」

 ズラッと並ぶ姉たちを前にしてあずくんがまたぺこっとお辞儀。

「挨拶はこれくらいにして、あずくん部屋へ行こう。姉さんたちもボクたちのことは気にしなくていいから」

 これ以上いたら姉さんたちに捕まりそうで、慌ててあずくんを連れて自分の部屋がある2階へと上がる。



「なんか、またグッズ増えてない?」

 部屋に入るなり、第一声がそれ。

「トモセくんのアクスタくらいだと思うけど」

「そんなことないよ。これとかそれとか・・・あ! これとか!」

 物色するあずくん。(よく覚えてるなぁ)

 うちに何しに来たんだろう・・・。


「慰めに来てくれたんじゃないの?」

「そうだよ。僕が、わざわざ、塾を休んで、横浜から東京の郊外まで、わざわざ、傷心してるだろうアキのために、わざわざ慰めに来てあげたっ」

 腕を組んで仁王立ちしてのドヤ顔。顔が整ってるだけに迫力がある。

「そ、それはあり・・・」

 お礼を言うべきなんだろうけど、なぜか言いたくない気持ちになって声がどんどん小さくなる。(わざわざを3回も言われた)

「でも、来て損した。思ったより平気そう」

「まぁ、ね。オタクやってたらこうゆう熱愛騒動は付きものだし」

「同感。それで、僕のせっかくの忠告を無視して知った結果、アキはどう思う? 黒だと思う?」

「うーん・・・熱愛発覚といいながら肝心のふたりのプライベート写真がどこにも掲載されてないし、記事を読む限り断定した内容がひとつもないと思う」

「ふわっと文ばっかってこと?」

「うん。それに、三上愛瑠ちゃんといえば、1週間後に公開予定の映画でトモセくんの恋人役なんだよね」

「それ、もう決定じゃん」

「やっぱりあずくんもそう思う? ファンの中でもつぶやいてる子いたんだよね」

「だってさー、トモセってこれから大学受験で芸能活動減らす予定とか立ててるんでしょ?」

「そうなんだよー! トモセくん、今めちゃくちゃ忙しいんだよ。だからおかしいなぁって」

「ま、裏をとって、受験を見せかけに付き合ったりする芸能人もいたりするかもだけど」

「トモセくんに限ってそんなことないよ!」

「ファンの目ー」


「とにかくいろいいろ調べたけど、多分、ねつ造だと思う。実際、騒がられてるけど映画公開を延期する予定はないみたいだし。トモセくんも三上愛瑠ちゃんも沈黙のまま。事務所側も特になにも対処してないみたい」

「あるんだよねー、ゲスな事務所。三上愛瑠が所属してる事務所、わりと手段選ばないことやるって聞いたことある」

「今回の件で事務所が絡んでるかわからないけど・・・ボクはファンとしてトモセくんを信じるよ」

「ふーん・・・で、これはなに?」

 さっきからあずくんに見られないように後ろに隠していた右手首を捕まれ、痛みが走る。

「痛っ!」

「バイト先でやったの? 早上がりしたのはこれのせい?」

 あずくんの声が怒ってるように聞こえる。

「あー・・・あはは、ちょっと焼けどしちゃって。大したことないんだけどね」

 包帯を巻いてる手首を左手でさする。

「ふーん・・・」

 あずくんの目が疑ってる。


「やっぱり来といて正解。怪我したこと隠されるところだった」

「あずくん」

「アキにご飯作ってもらいたかったなー。チャーハンとかオムライスとか」

「うぅ・・・治ったら絶対ごちそうするよ」

「よろしく」


 大丈夫。

 トモセくんのことを疑ってるわけでも、騒動に踊らされてるわけでもない。

 今日はたまたま調子が悪かっただけ。動揺したわけじゃない。



 あずくんは愛理姉さんがレンジでチンしてくれた冷凍チャーハンを食べた。

 そのあと風呂に入って、あずくんのお布団を敷いて寝ることになった。

「ベッドじゃなくてよかったの?」

「敷布団で全然平気・・・て、あ、これ? ホワイトデーの色紙」

 そう言って、あずくんがベッドの前に立てかけてある色紙を手に取る。

「その色紙のおかげで未だにトモセくんに会えるんだよねー」

「まだ夢に出るの?! その話聞いてから・・・1ヵ月以上経ってない?」

「うん、まだ夢で会える」

「それって、たまに?」

「ううん」

「ときどき?」

「会えない時もあるけど、毎日に近いかなぁ?」

「・・・」


 色紙をゆっくり元の場所に戻したあと、あずくんはボクの肩に手を置くと、

「今まで気づかなくてごめん、これから優しくするから病院に行こう」

「え? ちょっ、待って。いたって健康な心だから大丈夫だよ」

「いくらおまじないが効いてるからってそんなの思い込みでしかないって。アキがそこまで思い込むほど辛い思いしてるなんて」

「し、してないよ? あずくん。毎日それなりに楽しいよ?」

「嘘だ」

 疑り深い目でボクを睨む。

 やっぱり、毎日のように同じ人の夢を見るなんておかしいのかなぁ。もうあずくんに話すのはやめよう。


「そういえば、オーディション受けるとか言ってたけどどうなったの?」

 話を変えようと、ふと思い出したことを聞いてみる。

「2次で落ちた。他にもいくつか応募してるけど、ことごとく面接で落ちる。言葉がキツイとか、顔はいいのにとかそんなのばっか」

 審査員を思い出したのか、チッと盛大に舌打ちをする。

「もう、寝よっか」

 寝るのが一番、と布団に入って電気を消す。


 数分後、あずくんの寝息が聞こえてきたけど、ボクはなかなか寝つけず、やっと寝れてもトモセくんに会えることはなかった。

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