第13話「恋人ごっこ」2/2

 パチッと目を覚まし、白い世界にいることを確認したところで、

「恋人だ! したいことでまだやってないといったら恋人ごっこだ!」

 美紀姉と同じ、ボクもあの企画を観ながらトモセくんが彼氏だったらなんて妄想を何度したことか!

 ひとの妄想してるところをうっかり目撃すると引いちゃうのに、自分も同じことを考えるわけで。


 この夢を見ているということは、今日はトモセくんに会えるということ。(学びました) 

 急にソワソワして居たたまれなくなる。

「どうしよう、トモセくんにお願いしてみる? わー無理無理無理無理ー! 彼氏になってくださいなんて言えないよぉ! 第一、そんなこと言ったらトモセくんでも引くよ! そうだよ、ボクだってゲイじゃないんだし!」

 変な方向に勘違いされて嫌われたらって、トモセくんはトモセくんでも夢の住人だよぉー! わーそれでも嫌われるのは無理無理無理無理ー!


 その場で行ったり来たりして、自分と葛藤しあって数分・・・。

「だから『ごっこ』なんだ!!」

 と、最初に戻った。


 ふと視線を感じて振り返ると、少し離れたところにトモセくんがこっちを見ながら立っていた。

「うわぁー-! な、ななななな! いるなら声かけて下さーいぃぃ!」

 一気に顔が真っ赤になってテンパるボクとは違い、こらえきれずお腹を抱えて笑いだすトモセくん。

「ご、ごめん・・・だって、なんかひとりでやってるなーと思って」

 お腹痛いと言いながらケラケラ笑う推しが、尊すぎっ!!


「で、何に悩んでたの?」

 涙目で聞いてくれるトモセくんにキューンとときめく。(涙目の推し、尊いっ)

「えっと・・・某バラエティ番組を観まして。・・・企画をやりたいなぁと」

「え? ごめん。よく聞き取れなかった。もう1回」

 トモセくんはわざとじゃなく、ボクが恥ずかしがって肝心なところだけ声が小さくなった。 

 

 ん? とボクが言ってくれるのを待ってくれるトモセくん。(尊い)

 深呼吸をして、覚悟を決める。

「ぼ、ボクと恋人ごっこをしてください! お願いします」

 ぺこーっと腰まで折って頭を深く下げる。

「あぁ、あの企画ね。いいよ、アキとなら楽しそう」

 あっさりオッケーなのはいつものこと。

「わーありがとうございます!」

「どこ行く? というか、何もないところだけど」

「と、とりあえず手を繋いでもいいですか?」

「いいよ」

 はい、とトモセくんが右手を差し出す。


 うわーうわートモセくんの手だっっ!

 

 尊すぎて、直視できない。何度も手を服で拭いたあと、目をつぶって勢いよくトモセくんの手を握る。

「・・・これじゃ握手になるよ?」

 そう言われて目を開けると、握手会のように両手でがっちりとトモセ君の手を握っている自分に、驚いてパッと放す。

「うわーごごごごめんなさい! ついっっ!」

 赤面して顔が熱い。(穴があったら入りたいっ)

「アキから言ったのに。ほんと、アキって面白い」

 くすくすと笑いながら、トモセくんがボクの右手を繋いだ。

「なにもないけど、とりあえずデートっぽく歩こうか」

 爽やかな笑顔に、ボクはただただうなずく。


 手汗がすごいと、ボクが限界を訴えたので手を繋いでの散歩は5分で終了した。

「なんかすみません。自分から恋人ごっこがしたいと言ったのに」

 地面に座りながら、しょんぼりとうなだれる。

「いいよ、なんかアキらしいっていうか、慣れてきた」

「え」

 さらっと言うトモセくんにボクの目が開く。

 脚を投げ出し、くつろぐトモセくん。

「生配信でも報告したけど、夏にやるコンサートが終わったら受験勉強に専念するために芸能活動をちょっと控えることになって。あ、でも、レギュラー番組とか、配信は回数減らすけどやるよ。アイドル活動も・・・歌番は出ると思う。だから、今が一番忙しくて。映画公開の宣伝したり、新曲発表したから歌番出たり、合間を縫って勉強したり、とにかく忙しすぎて・・・寝てる時だけ。寝てる時だけがオレののんびりできる時間」

 どこを見るでもなく、視線を落としたトモセくんの横顔がアイドルとは違う、普通の男子、クラスメイトの木山知世くんだ。

 疲れてるんだ、トモセくん。

 なのに、ボクは舞い上がってばかりで・・・。夢だから、何でもな叶えてもらえるからって調子に乗って。


 自分が恥ずかしい。

 本当は気づいてたんだ。テレビを観て、配信を見て、日に日にトモセくんの顔がやつれていくのを。目の下にクマがあるのをコンシーラーで隠してるのを。肌の血色が悪いのも。

 気づいてて、でも、芸能人だからって当たり前のように受け入れてた。


「・・・あの、ごめっ・・・」

「アキといるとホッとするんだよね」

「へ?」

 謝ろうとしていたボクの言葉をさえぎって、トモセくんが優しく微笑んでくれる。

「あー疲れた、しんどーい。今日はもう家にさっさと帰って寝たいーとか思ってても、アキがこの番組観ててくれてるかも? とか、今日の配信観てアキはどんな感想言ってくれるかな? とか、しんどいけどアキに会えるから頑張ろう! ってやる気が出るんだ」

「ぼ、ボクで?!」

 

 さすがボクの夢の中!

 トモセくんがボクのことを評価してくれてる。

 こんなボクと会えることを楽しみに・・・。偽りだとわかってても嬉しくて泣きそうだ。


「あの・・・今までたくさんボクのお願いを叶えてくれたから、次はボクがトモセくんのお願いを聞きまっす!」

「オレのお願い事?」

 きょとんとするトモセくんに、ボクは力強くうなずく。

「その手は考えたことなかったな。仕事上、企画とかで叶える側ばっかりだったし」

 腕を組んで、うーんと考え込む。

「あ、べつに今すぐじゃなくていいです。例えば、今日は仕事で疲れたから癒されたい! とか。勉強して疲れたから寝たい! とか、甘いものが食べたいとか」

「癒されたい、寝たい・・・甘いものかー」

 うーんと余計にトモセくんを悩ませるはめに。


 ボクのバカっ。


「ご、ごごごめんさい、退場します」

 立ち上がろうとしたら、トモセくんに手首をつかまれ引き戻される。

「お願いごと! 退場せずここにいること!」

「は、はい」

「とりあえず、保留でもいい? 考えるのも楽しいからもうちょっと考えたい」

「いくらでも!」

 やった! と喜ぶ推しに、胸キュン。(尊いっ)


 現実のトモセくんにも疲れが吹っ飛ぶ癒しがありますように・・・。

 横にいるトモセくんを見つめながら、本物のトモセくんはちゃんと寝ているのか、良い夢を見れてるのか。

 いちファンのボクには知るすべがないけど、願わずにはいられない。

 頑張りすぎて、体を壊しませんように。

 

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