第11話「会えない日もある」2/2
「ありえない、生配信がないうえに夢の中でも会えなかったなんて!」
1週間も!!
真っ白い世界で、膝をかかえながら落ち込む。
期末テストより短い中間テスト。ボクの学校は4日間ほどで終わったけど、トモセくんの学校はどうだったんだろう。
言ったとおりに中間テストが終わってすぐ配信復活なんてしないだろうけど・・・。現に、今日の夜にいつもの時間に生配信で復活した。
「一般的に4日間の中間テストだったとして、今日までの残り3日間はいったい・・・」
こんな細かいファン、嫌われるってわかってるけど、夢の中でも会えなかった分、寂しさがストレスに・・・。
「うぅ・・・」
半べそかいてると、どこからか歌声が聞こえてくる。
聞き覚えのある、落ち着いた青い声。
心が高鳴るのを感じ、急いで声が聞こえる方へと駆け寄る。
「と、トモセくん!!」
Tシャツと黒のジャージ姿で踊り続けるトモセくんを発見。
1週間ぶりのトモセくんに声が出ず、ただただ邪魔にならないように離れて見守ることに。
ストイックに踊り続けるトモセくん。見守り続けて30分は経った気がする。(夢の中だから正確にはわからない)
見たことないダンスはきっと新曲用だ。
今日観た生配信で新曲を発表するって言ってたのを思い出す。
口ずさんでる歌も聞いたことがない。
踊っては、また同じ動きをして、ときどき数字を言いながらカウントをとってる。
夢の中でも汗をかくのか不思議だけど、汗を拭うしぐさをダンスの合間にするのがたまらなくキュンッとくる。(トモセくんの汗になりたいっ!)
『新曲のためのダンスが今回はけっこう難しくて・・・時間があれば練習してるんだ』
きっと、この言葉がボクにとって印象に残ったから夢の中でこうやってトモセくんが練習してるんだ。(ダンスと歌は創造?)
もしかして、中間テストが終わっても生配信がなかったのは新曲とダンスを練習していたから?
大学受験の勉強もあって、アイドル活動もやって生配信も・・・。
頑張りすぎるよ、トモセくん。
気づいちゃったら、キューンと心臓が締めつけられて苦しくなる。
「ダメだなぁ。推しがこんなにも頑張ってるのに、1週間会えないだけで・・・」
情けなさと、欲張りになってる自分に凹む。
ふと、パチッとトモセくんと目が合う。
「アキ! いつからいたの? 声かけてくれればよかったのに」
こっちに来るトモセくんに、1週間ぶりの破壊力に逃げそうになる。(穴があったら入りたい)
「お、お疲れさまです! 1週間ぶり・・・ですね」
「あれ? そうだっけ? そういえば最近会ってない気が・・・」
はははと笑顔で、忘れられてた発言!
友達にときどき存在が薄いとか言われるけど、まさか推しにまで・・・。地味にショック。
「ごめんね、言い方悪くて。テスト終わったらすぐ事務所の合宿所でメンバーと泊まり込みで練習してて。気づいたらスタジオで寝てた・・・なんて感じだから」
「え! それって今日の生配信で言ってた新曲ですか?」
「うん、観てくれたんだ、ありがとう」
ニコッと笑顔に、キュンとときめく。
「難しいって言ってましたけど・・・」
「そうなんだー、テンポの速い曲で。みんなは先に練習しててオレだけ遅れてるから。学校まだ通ってるのオレだけだし・・・て、ごめん、こんなこと・・・アキはラヴずのファンなのに」
ファンには弱音を見せちゃいけないってことかなぁ。
嬉しいけど、かっこいいけど、なぜか心にチクッと針が刺さったみたい。
弱音さえ見せてほしいなんて、ファンとしてわがままかもしれない。
ここは夢の中なんだ。
ボクの理想が今のトモセくんなんだ。
弱音を吐かせないのは、ボクのせい・・・。
「あの、ボクも一緒に踊っていいですか? ひとりで踊るよりふたりで踊った方がテンポとか取りやすいかも」
「アキ、踊れるの?」
「実は・・・ラヴずのダンスは全部完コピしてまして。動画配信とかまではしてないんですけど、同志・・・友達と一緒に踊ったやつは一応撮りだめしてて」
自分からこんなことを言うなんて自慢みたいで恥ずかしいけど・・・と自然に頬が赤くなる。このことは家族とあずくんしか知らないから余計に恥ずかしい。しかも、トモセくん本人に言うなんて!(夢の中の住人ですけど)
「すごいじゃん! その動画見てみたいなー」
「無理です! 無理無理無理無理! あず・・・友達はめちゃくちゃうまいけど、ボクのはもう人に見せられるものじゃ・・・」
ブンブンッと力強く首を横に振って否定する。
「・・・でも今回のダンスほんとに難しくて・・・さわり程度でいいからどれか踊ってみせて。オレ歌うよ?」
「え! 生歌なんて無理無理無理無理、無理です! カウントだけで大丈夫です! むしろカウントも自分でとります!」
そっか。提案しといて見せないなんてかえって失礼なこと言っちゃったな。
動画は無理だけど、トモセくんの役には立ちたい。
恥を覚悟で、ラヴずのデビュー曲のさびの部分を軽く踊ってみる。
本人の前で踊る日がくるなんて・・・と緊張しすぎてちょっと間違えつつもなんとか踊りきった。
「へー、思ったよりキレがあっていい動きするね」
「そ、そうですか?!」
トモセくんに褒められた!! めちゃくちゃ嬉しいっ。
「じゃー、練習つきあってもらおうかな」
「は、はいっ! あ、あの!」
ん? と体をほぐしながらボクを見るトモセくんに、もう一度恥を覚悟で勇気を振り絞る。
「よ、弱音吐いてください! キラキラしてなんでも完璧にこなせるトモセくんも好きですけど、ここは夢の中なんだし、ボクひとりだけだし。なんでも言ってください」
きょとんとするトモセくん。引かれたかもしれないと慌てながら他の言葉を探す。
「えっと・・・なんでも言えるファンもひとりくらいいてもいいと思うんですよね。ほら、年も近いわけだし、友達感覚なファンとか! 男同士だし」
もうやけっぱちみたいな言葉しか浮かばない! 最後は笑ってごまかしちゃった。
「うん、いいね。 友達感覚のファン! ありがとう、アキ」
「い・・・いえ」
ニコッとアイドルな笑顔を向けられ、伝わったのか腑に落ちない気持ちになる。
伝わるもなにも、ここは何度も言うけど夢の中。
トモセくんもボクが作り出した偽りだ。
それなら腑に落ちなくても、自己満足とばかりに言いたいことは言おう! あずくんだって言ってた『なんでも叶う』て。
もう遠慮はしない。
「じゃー、イントロのところからやろっか」
「はい! あ、ボク、さっき見てたんでなんとなくなら」
「え、覚えるの早っ!」
推しと一緒にダンスの練習!!
最&高すぎるー!!
曲もダンスもまったく覚えてないけど、目が覚めたらなぜか本当に練習したみたいに体に疲労が残っていた。
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