第10話「会えない日もある」1/2

 今月は中間テストがある。

 それは日本ならどの学校でもだいたい同じみたいで。


「雨野くーん、休憩入っていいよー」

 ホールからキッチンを覗きこみながら飯島さんが声をかけてくれる。

「わかりました。じゃ、休憩いただきます」

 キッチンの先輩でもある赤井先輩に会釈して、休憩室へと戻る。


 三畳ほどの狭い部屋は更衣室も兼ねていて、カーテンだけの試着室(主に女性が使う)に壁に沿ってロッカーが数台、反対側の壁にパイプの長机とパイプ椅子がある。

 ロッカーからスマホと、行きにコンビニで買ってきた菓子パンを取り出してパイプ椅子に座る。

「あー、忘れてたぁ」

 慌ててロッカーに戻って英語の教科書を鞄から引っ張りだす。ついでに、冷蔵庫から買っておいたペットボトルの水を取り出し、再びパイプ椅子に座る。


「よし!」

 準備万端とばかりにスマホの画面をいじる。

 これからトモセくんの生配信が始まる。トモセくんはとてもまめで、多い時には週3回も配信してくれる。しかも、全部録画じゃないからすごい。

 画面にトモセくんが現れ、バイトの疲れが一気に吹っ飛ぶ。

 一人の時もあれば、メンバーと一緒の時もあってトモセくんなりに工夫してくれてるのが伝わる。そうゆうのってファンには推しの愛が感じられて、ボクは好き。


 今日はメンバーで仲のいいジュンくんと一緒だ。

 仲がいいだけあって、楽しそうに会話が弾むふたりを観ているとこっちまで幸せな気持ちになる。

 もう、顔のニヤニヤが止まらない。

 緑のパステルカラーのパーカーの隙間からワイシャツらしき襟が見え隠れしているのに気づく。

「これはもしや・・・下は制服なんじゃ・・・」

 夢で会ったトモセくんを思い出し、ドキドキする。

 上半身しか映ってないトモセくんだけど、下は高校の制服のズボン・・・緑のチェック柄ズボンのはず。

「・・・なーんて、そんなわけないよね」

 あははとひとりで笑う。


 最後にお知らせがあります、とトモセくん。

 控室にある掛け時計を見ると、もう15分が経とうとしていた。

「あっという間だ~」

『来週から学校の中間テストがあるので、配信はしばらくお休みしまーす。楽しみにしてくれているファンのみなさん、本当にごめんなさい』

 両手を合わせて申しわけなさそうな笑顔のトモセくん。相づちに、隣にいるジュンくんが「受験生だもんな」と一言。

 最後の最後に宣伝をひとつして、トモセくんとジュンくんが手を振りながら配信が終わった。


 ガクッと長机に突っ伏してしょんぼり。

「学業じゃしょうがない。ボクだって、来週から中間テストだもん」

 しかも、トモセくんは大事な大学受験が控えているんだから、中間テストだからって気は抜けないはず。

 スマホを見ると、終わった配信画面の下に観終わったファンらしき人たちのコメントが殺到している。

 みんなトモセくんの配信を楽しみしているのが伝わる内容ばかり。

 寂しいとか、来週からどうやって癒せば・・・とか。中には、トモセくんの勉強を応援するメッセージも。

 それを見ていたらボクもクヨクヨしてられないと気合が入る。

 ハッとあることに気づき、

「待って。トモセくんの学校とボクの学校、中間テスト一緒の週だぁ! ヤバイ、元気出たぁ!」

 これぞ、オタク脳!

 一緒ていうだけでテンションが上がる。

 それにボクには夢の中のトモセくんがいるんだと開き直る。

 ふふふと自慢げな笑みがこぼれた。



 だけど、トモセくんが言った言葉が印象強かったのか、生配信が復活するまで夢の中でもトモセくんに会うことはできなかった。

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