第2話「ボクの日常」1/3

 

「ゔ・・・うわぁぁぁー」

 トモセくんの抱き枕をぎゅっと抱きしめながら、声にならない声をあげる。

 

 また夢の中でトモセくんに会ってしまったぁぁぁー!!!

 添い寝! 添い寝ってぇぇぇー!!


 うわぁぁぁぁぁぁー。


 目が覚めたばっかりなのに、興奮しすぎてベッドの上でゴロゴロとのたうちまわる。


 スクッと起き上がり、ベッドの上に座って枕元に飾ってある一枚の色紙を手に取る。

「これもすべて、きみのおかげだよ!! うちにお嫁にきてくれてありがとぉぉぉー」

 ぎゅーっっと熱いハグ。

 

 ハッと我に返り、スマホを手に取るとすっかり活動時間を過ぎていることに気づき慌ててベッドから降りる。

「まずい、急いで着替えなきゃ」

 夢の余韻に浸る暇もない朝。ボクは慌ててTシャツを脱いで制服でもあるYシャツに着替え、紺色のズボンと靴下を履く。

 そして、壁に掛けられている等身大のトモセくんのタペストリーに頬を寄せ、いつもの朝のあいさつを。

「おはよう、トモセくん。朝ごはん作ってくるね」


 推し部屋でもある自分の部屋をあとにし、慌てて階段を下りる。


 話せば長くなるけど、ボクはいわゆるアイドルオタクだ。それも生まれつきの生粋。

 普通の赤ちゃんが教育テレビを観て世の中を知っていく中で、ボクだけはアイドルを観て世の中を知った。(育った)

 ボクは性別上男だけど、生まれつきハマっているのは男性アイドルだ。思春期の頃は強がって女性アイドルに興味を持つフリをしてみたけど、全然ときめかなかった。

 だからといって、ボクがゲイというわけじゃない。同じクラスのかわいい女子がいればときめくし、淡い恋だってしたこともある。(両想いになったことはないけど)


 そして今、ボクがめちゃくちゃ沼にハマりにハマっているのが、10代20代に大人気の男性アイドルグループ『ラヴ→ず』略して、『ラヴず』

 当時、女性アイドルグループばかり輩出していた某大手事務所が異例の男性アイドルグループの全国オーディションをして選ばれた10人。

 その中に最年少として当時13歳だった木山知世(きやまともせ)くん。今は絶賛受験中の高3。

 やわらかそうな焦げ茶色の髪に整った顔立ち、二重の丸い瞳が子犬を連想させる愛嬌さ。

 細身の体系は普通だけど、それが逆に親近感が沸いて親しみやすい雰囲気が出ている。

 同じクラスにいそうな・・・。

 無理無理、トモセくんが同じクラスにいたら勉強どころじゃなくなるよぉ。

 想像しただけで赤面しちゃう。


 生きてるだけでいろんなことがある毎日。生きがいがあるだけで、それだけで毎日頑張れる。

 ボクにとってそれがトモセくん。ボクの推しアイドル。


 洗面所で顔を洗って、リビングへ向かい、キッチンの前に立って水色のエプロンを身に着け「よしっ」と気合を入れる。

 慌ただしい日常の始まりだ。

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