超能力

ゆでたま男

第1話

「それでは、観客の中から誰かお一人に参加してもらいたいのですが」

司会者が適当に指名する。

「そちらの女性の方、お願いできますか」

「はい」

女性は、ステージに上がった。

「どうぞお掛けください」

椅子に座らせた。

「浜野さん、ではお願いします」

司会者は、ステージのわきに移動する。

「はい。では、目を閉じて、体の力を抜いて下さい。今から精霊をあなたに宿します」

浜野は、女性に手をかざした。

「何か声は聞こえませんか?」

浜野は聞いた。

「いいえ」

女性は、答える。

「もう少しパワーを強めます」

「あ!聞こえます」

女性の周りには誰もいない。

「なんと言っていますか?」

「体を操ると言っています」

「なるほど」

すると、女性の腕がゆっくり上がった。

観客がざわつく。

「あ、いやだ。私、何もしてないわ」

そして、腕がゆっくり戻る。

「どうですか、藤村教授」

司会者が聞いた。

「これは、全く超能力などではありません。簡単なトリックです」

「トリック?」

「声が聞こえると言うのは、おそらく指向性の高いスピーカーで彼女だけに聞かせているからです。探せば何処かにスピーカーが仕込んであるはずですよ」

「しかし、腕が上がったのは」

「椅子です。おそらく、電気が流れているのでしょう。電気で筋肉を収縮させているのです。これは、単なるマジックに過ぎないのです。もうこれ以上インチキはやめなさい」

番組は藤村の完全勝利として幕を閉じた。

それ以来、超能力者として人気だった浜野は、単なるマジシャンと言われ、中には詐欺師扱いするものまで現れた。


ある日、藤村はベッドの上で不思議な感覚に襲われる。目を開けると、体に違和感があり、重たいのだ。

その時、どこからか声が聞こえてきた。

「復習する」

そんな馬鹿な。部屋の中には誰もいない。

体を動かそうにも、起き上がれない。

しばらくすると、自由になった。

今のはなんだ。きっと体に

病院で、あらゆる検査をしてみたが、特に原因はわからない。

精神科に行くと、ストレスではないかと言われる。

その後も、原因不明の声は聞こえ続けた。

ある日、駅のホーム。電車を待っていると、目の前に女性が立っていた。スマホでニュースを見ている。

藤村は、驚いた。それは、浜野が自殺していたという記事だった。

自分でも検索する。一週間前の事だ。

「復習する、復習する」

また声が聞こえて来た。

足は動かないのに、両手だけが勝手に上がっていく。

ホームに電車が入って来る。

藤村の手は、前にいた女性を突き飛ばした。

女性は、線路の上に倒れ、電車がその上に停車した。

すぐに警察が駆けつけ、藤村は捕まった。

「違う、自分じゃない。声が聞こえた。体が勝手に動いたんだ」

藤村は、取調室で刑事と向かい合っていた。

「なに言ってんだ、体が勝手に動く分けないだろ」

すると、刑事の顔がみるみる青ざめていく。

「声だ、声が聞こえる」

そう言って、両手を伸ばして、藤村に近づいて来る。

「やめろ」

藤村は、恐怖のあまり、顔が歪む。

「違う、体が勝手に動くんだ」

刑事の両手が藤村の首を掴んだ。

「やめてくれー!」

藤村の叫び声が署内に響いた。

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超能力 ゆでたま男 @real_thing1123

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