第5幕 公開処刑

いつも通りの朝。

起きたらまず煙草を吸う。

普段は2、3本吸ってしまうが、今日は1本で済ませた。

朝はしんどくて、中々起き上がらず、煙草を吸ったまま時間が過ぎてしまうことが多い。

今日はいつもより寝起きがいい。


立ち上がってテーブルに向かい、朝食を食べる。

朝食はいつもの目玉焼きとソーセージにご飯だ。

気分で醤油かソースを選ぶが、今日はソースをかける。

ご飯を食べながら、テレビをつける。


『◯◯区の◯◯くん、殺処分』


私は目を疑った。

たしか◯◯くんって突然◯◯区に現れた猿だったよな。


人懐こい上に危害を加えないことから、近隣住民から愛されて、面倒を見られていた。


例えるなら、以前に多摩川に迷いこんだアザラシのたまちゃんみたいな感じだ。


何故かわからない。

ずっとニュースキャスターは殺処分する一辺倒で理由を語らない。


小さな檻に入れられる◯◯くんが映し出される。

窮屈そうな檻に入れられ、作業着を来た男性3人に囲まれてる。


携帯で検索するが、殺処分するという情報だけで何故そうなったのかの理由が書かれていない。


あんなに愛されていた◯◯くんが何をしたんだ?

しかも急に殺処分なんて……。

檻の周りにいる作業着姿の男達が動きだした。


「今から◯◯くんの殺処分を始めます」

現地にいるリポーターがそう言い、◯◯くんの檻がクローズアップした。


私は困惑した。

まさか殺処分を公開するのか?

いつもマスコミの過激なやり方に不満を覚えているが、ここまでするのか?


私はすぐにチャンネルを変えた。

見ていられない。


しかし、他のチャンネルも◯◯くんをこれから殺処分する映像だった。


おかしい……。

話題のニュースが頻繁に放送される事があるが、どのチャンネルもこれから殺処分される◯◯くんを映している。


私はテレビを切ろうとした。

しかし、いくらボタンを押しても切れなかった。


そうしているうちに男達が何かを持って◯◯くんを囲む。


◯◯くんの顔はこれから自分が殺されることを察して諦めたのか。

それとも何故このような事態になっていることがわかっていないのか。

異常にまで冷静で無表情だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ました。

とても嫌な気持ちになった。

夢の中では、◯◯くんが実際に存在するという認識だったが、きっと夢ならではの記憶の改竄だろう。

起きた時には猿の名前も区名も忘れていた。


私は煙草に手を伸ばし、吸った。

朝からとても嫌な気分になり、結局3本吸ってしまった。


支度を済ませて、会社に向かう。

電車の中で今日見た夢について気になったことがある。


なんでこんな夢を見てしまったのか?

私は携帯で猿が殺される夢と検索した。


調べると猿は夢において、ずる賢さを表す存在でありため、警告夢とされることが多いらしい。


しかし、猿が殺される夢は吉夢であるみたいだ。

これは悪い縁が切れて、不安や恐怖から解放されることを表しているらしい。


確かに、数ヶ月前に人間関係にまた失敗してしまい、縁が切れたばかりであった。

いや、裏切られて一方的に切られたと言ったほうが正しい。


この夢を見たからと言って本当に解放されるわけではない。

簡単に心の傷やトラウマが消えるわけではないからだ。

私は正直占いというものも信用していない。


ただ、なんでこんな夢を見たのか疑問だ。

私が心の底で不安や恐怖から解放されたいと願っているからか?

それとも猟奇的な夢を見るほど、私が狂ってしまったのか?


それは自分でもわからない。

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