第4幕 ながら包丁

またやってしまった。

今日も遅刻だ。

昨日もギターの練習を遅くまでやっていたからな。

学校の授業、アルバイト、部活となると、なかなか練習の時間も取れず、夜に練習することが多い。

そして夢中になった結果、睡眠時間を取れずに寝坊するというオチだ。

今、部活内での他のギター担当は上手い人ばかり。

下手な俺は必死に上手くなりたい一心で、練習をしてる。


しかし、これ以上は遅刻ができない。

時間帯で言うと、1限には間に合う時間だ。


だが、俺の通う高校にはホームルーム前にいる朝読書というのがある。

朝の10分間読書をするという習慣だ。

この10分間で遅刻したり、出なかったりすると、その時間が蓄積されていき、必要最低限の時間をクリアしてないと補習を受けることになる。

そしてその補習をバックれでもしたら、最悪の場合留年することだってある。


この朝読書は言うなれば、授業の1つと言える。

なんであるのかは、疑問に思ったことがない。

小さい頃から、本を読むことが好きだったため、特にその理由について疑念を抱いたことが無いからだ。


今はリアル鬼ごっこで有名な山田悠介さんの小説を読んだりしているが………。

今はギターに集中してしまい、朝読書の時間にいないことも多く、あまり読めていない。


このままでは補習になってしまう……。

そしたら、ギターも練習できなくなるし、部活にも支障がでる。


ちゃんとスケジュール管理しなきゃな……。

そう考えながら、バス停に向かう。


最近背中が軽い。

ギターが2本になって、1本はメイン用で部室に、もう1本は練習用に家に置いてあるからいちいち持ち運ばなくていい。


少しは登校するのも楽になったんだから、ちゃんと改善しないとな。

あともう少しでバス停だ。


さっきから気になってはいたが、髪の長い女の人が、何かを片手に持ちながら、下を向きながら、丁度俺の後ろを歩いている。


チラッとしか後ろを見なかったから、よく見えなかったが、多分携帯だろう。


俺は歩きながら携帯を使うことをよく思っていなかった。

危ないし、他の人からしたら迷惑だ。

それに歩きながらいじるなんて、そんな器用なこと俺にはできないし、できるようになろうとも思ったことがない。


歩くスピードが遅いから、俺にぶつかる心配は無いが、後ろにいるというのが、なんか少し嫌だ。


まあどちらにしろ、もう少しでバス停だし、別にいいだろう。

俺はそのままバス停でバスを待ち、女の人はそのまま携帯をいじりながら、俺を通り過ぎるだろう。

まあ、この人もバス停で止まるかもしれないが、どっちでもいい。


それにしても、なんか近くなっている気がする。

気のせいか?

バスが来てるから急ぎ足になったのか?

なんか気味が悪いから、俺を通り越してほしい。


だんだんと近づいてきてる。

俺は怖くなって後ろを振り返る。


そして……。


俺は女の人とぶつかった。

いや、ぶつかったというよりあちらからぶつかってきたという方が正しい。


女の人の顔を見ると恐ろしい顔だった。

長い髪の間から見える顔は青白く、目が虚ろになっていて何故か震えている。


俺は一歩下がる。

そしてもう一点気づいたことがあった。


女の人が持っていたのは携帯じゃない。

赤く染まった包丁だった。


俺は自分の胸元見た。


俺の胸元は………。


赤い血で染まっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は目を覚ました。

冷や汗をかいていた。

それにしても、嫌な夢だ。

刺される夢なんて、痛くなくても気分が悪い。


家には俺しかいない。

母さんはパート、父さんは仕事で弟は学校に行ったんだろう。


多分誰かしら起こしてくれたんだろうが、きっと起きなかったんだろう。


また遅刻だ。

本当に改善しないとまずいことになる。

それと今日見た夢のことを思い出す。


青白い顔、虚ろな目、そして血に染まった包丁。

まだ朝方なのに、出歩くのが怖くなってくる。


俺はいつも通り、バス停に向かう。

歩いていると後ろに違和感を感じた。

チラッと後ろを見る。

長い髪の女の人が、下を向きながら歩いてくる。

俺は怖くなったが、あれは夢なんだ。

必死に言い聞かせる。


言い聞かせたが、どんどん近づいてくる。

そして早歩きになってくる。


俺は昨日の夢と状況が重なり、恐怖が限界値を超えて、立ち止まり振り返った。


振り返ると女の人が持っていたのは携帯だった。

女の人は俺のことを不思議そうに見ながら、丁度到着したバスに乗っていた。

俺もその後バスに乗った。


あの夢を見てから、俺は外を出歩く度に後ろに人が歩いていると、怖くて後ろを確認するようになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから何年か経ち、私は社会人になった。

当時の夢を振り返って怖いとは思わない。

しかし、誰か後ろに歩いていると違和感を感じることがある。

体があの時の恐怖を覚えているということだろう。


高校生の時にスマートフォンが発売し、ガラケーから乗り換える人が少なからずいた。

今となっては老若男女関係なく、スマートフォンを使用している。

便利な世の中になったと思う。


しかし、便利になった分ガラケー時代よりも携帯を見ながら歩いている人が多くなり、ながらスマホという単語ができたぐらいだ。


ながらスマホが原因で、事故や揉め事に発展しまうことは嫌という程ニュースで目にする。


手に持っているのが凶器だろうが、スマホのような便利な物だろうが関係ない。


スマホだって、間違った使用をすれば危険な物に成り下がってしまうのだ。


注意喚起があっても、自分は大丈夫だと続ける人間達の方が私は怖いと思った。

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