何回目かのやり直し
リアは目が覚めたとき、あれだけ痛かった体がちっとも痛まないことに気付いた。
(私……魔動具を起動させて……それで時間を巻き戻したけれど)
今まで何度もやり直したものの、これだけはっきり記憶が残ってやり直せたことがなかった。
(発動条件が、発動者が死ぬこと……巻き戻したらやり直せるのだから、変わらないのかもしれないけれど)
それでも何度も何度も痛い思いをするのは嫌だ。ファントムペイン。今は体の傷がどこにもないはずなのに、それでも痛い気がずっと続くのは勘弁願いたい。
(でも……いったいどれくらい前に巻き戻ったんだろう。いつもやり直した際に記憶が取り戻せたのは、遺跡が起動してからだった。だからなにもかもが手遅れになっていた……)
遺跡起動直前に奇跡的に記憶を取り戻せたときは、大学側と一緒になって管理者に遺跡調査の危険性を伝えて調査中断に掛け合いに言ったが、金欲の権化である管理者には追い返されてしまった。
せめて重騎士団をどうにか呼ぼうと、大嘘を書いた依頼書を王都にまで送ったりもしたが、遺跡が起動してしまったため、後手後手に回り手遅れだった。せいぜいその際に他の町に古代兵器の拡散を防げたことくらいしか成果がなかった。
そこまで思い返して、ふとリアは寝ていたベッドを見ていておかしいことに気付いた。
(……あれ、ここ。私の部屋じゃない?)
リアはプロセルピナの大学の一室を借りている。プロセルピナで発掘作業を続けている発掘師たちはもっぱら大学に所属して、そこからチームのミーティングや発掘調査に通っているのだ。
だから基本的に最低限の荷物と家具しかない部屋で暮らしているのだが。
ここは明らかにベッドとクローゼット、姿見しかない部屋だ。
(あれ……? でもこの部屋)
リアは思わずベッドから抜け出し、姿見を見て言葉を失った。
髪は日頃邪魔にならないようにポニーテールにまとめている伸ばしっぱなしの髪だが、今はまだあまり伸びておらず、せいぜい肩までしかない。
おまけに、デュークに鍛えるように言われて、朝と夜には欠かさず筋トレを施している体にしては、全体的に薄い。
この体はまさに。
(これ……私がまだ実家にいたときじゃない……!)
喉から悲鳴が飛び出そうになったが、扉が叩かれて、我に返った。
「リア起きなさい! 学校に遅刻するわよ?」
「は、はあい……!」
リアはぎこちなくクローゼットで服を着替えた。手を見ると、スコップやシャベルを握り慣れてない、豆の潰れてないまっさらな掌が広がっていた。
(……五年……ううん。六年? そんな前にまで巻き戻っちゃったんだ。でも……ここからやり直すとなったら、いったいなにができる? なにをすればいい?)
リアはワンピースに鞄を背負って部屋を出た。
リア・ボルジャンニ。地元のジュニアハイスクールに通いはじめたばかり。まだ人生についても進路についても定まってない、発掘師として活動もはじめてない、プロセルピナで商売をする両親の元で暮らす子供であった。
****
プロセルピナは遺跡の上につくられた町だが、発掘師や大学関係者以外も生活している上、大学から離れれば離れるほど遺跡の上で暮らしているという自覚がなくなる。
だからこそリアのように発掘師に憧れる娘は意外と珍しく、皆学校を卒業と同時に商売はじめたり、よその町に行って働きはじめたりする。
リアは図書館に向かうと、プロセルピナ遺跡の歴史について書かれている本を読んでいた。
ジュニアハイスクールの生徒にしては難しい本ではあるが、リアは何度も発掘師をしていた彼女にはそこまで問題なく読める本だ。
(やっぱり……古代兵器についてのことは、私が発掘師になった前後から調査が進められるようになって、まだ本になるほどの情報が載せられてないんだ)
キラーの発見自体は、第十層の、それも遺跡起動する直前まで発掘師たちすら知らない話だった。
ドール、ゴーレム。それらの存在も本には出てこない。ただ既に魔動具に使われている物質は超合金と判明しており、遺跡起動した時点でも未だに超合金の再現ができないでいる。
(でも……重騎士の装備があったら壊せるし、冒険者でも対処できる。ただ間に合わないと被害が出る)
学者だけでは対処ができない。
だが騎士団を呼ぶには大義名分がないといけない。
(……私が騎士団に入るのは?)
リアは元々冒険者に魔法を習っていたが、冒険者では習える魔法が変わって来る。
騎士団は国に所属しているため、覚えてもいい魔法の制限が緩い。
期限まで六年。六年もあれば、使える魔法が増える。ただ、騎士団の所属先は偉くならなかったらどこに飛ばされるのかがわからない。
プロセルピナに戻ってこられるかは、ほとんど賭けだ。そもそも騎士団に入ったら最後、デュークに会えるのかどうかもわからなくなるが。
(……あの人が死ぬのを、これ以上見たくないな)
プロセルピナの大惨事。キラーによって蹂躙される街並みに、キラーに惨殺されるデューク。
これだけ猶予がある中、早めに記憶を取り戻せた機会なんて、もうない。
リアはそう思い立って、職員室へと向かっていった。騎士団の紹介状を書いてもらうためだ。
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