再現の書
「戦争好きの天使や悪魔と同じにされたくないね」
「同じではないなら結晶人が造られたことと戦争に関係はないんじゃない? 関係あるの?」
どうしておれに質問する。何もかも知り尽くしているくせに説明を求めるなよ。もしかしておれの理論を崩壊させようとしているのか? すでに崩壊している理論をどう崩壊させる気だ。
「あるって言っただろ、人間たちの代わりに戦争するために造られたのだから、戦争がなければおれたちが造られ続ける理由は無い。結晶人と戦争が関係なきゃ聖戦記を書く理由無いだろ」
「あなたは戦場に立ちたいの? ずっと戦場に立っているのに?」
「ここは戦場じゃねぇよ、寝て食って寝る家畜の都だ」
日常が戦場ならおれはとっくの昔に死んでいる。おれが立っているのは墓地だ、戦場で逃げたことを戦死者に恨まれ、己の誇りを谷に捨てたことで結晶に裏切られ、挙句の果てに一族の血は呪われた。毎日毎日罪滅ぼしのための墓参りをしては、おれという存在が消えるわけもなく戒めの言葉に多用される。
そうだ、帰結するんだ(おれは戦場に立てないからいのちの重みすら理解できない)、そこに帰結する。戦争があるからこころから悲しめる、聖戦があるから生命が穢れていく。死体が積み上げられている時代では下を見るしかないのにニレンは獅子の面構えで前を向いている。人間たちが同志で争わないように、結晶人が誇りを穢されないようにと日常をも戦場にして少しずつ前へ進もうとしている。ニレンはどうやって戦場で神々を笑わせたんだ……考えても考えても何も分からねぇよ、どうしてリジーは死んでおれは生きているんだよ。
おれはどうしてあいつの背中を追っている……恨みでも憎しみでもないのは分かっている。あいつの背中には光がある、おれのような奴でも照らしてくれる光があいつには宿っている。しかし未来は暗く、あいつの光が飲み込まれてしまいそうなんだ。
そうだ、だからおれは…………
<>「獅子王よ、僕と彼女のことは忘れてくれ」</>
という言の葉がおれの裡から響いた。それは呪いのように駆け回り、おれの全身を廻り終えた。と思ったら、(おれは何を考えていたっけ?)
「『あなたはどうして大舞台に立ちたいの?』って、わたしは訊いたんだよ。ヒトは生きているだけで戦っているようなものなのに、あなたはどうしてセカイ崩しに参加したいの……」
そうだ、おれが忘れていては前に進めないんだ。
「おれだけは
「聖戦が無ければ死ぬって分かったんだね。その記憶が不協和音の剣の記憶だってことはまだ思い出していないけど……ようやく鞘から引き抜いたようだね」
は? 不況? ワオン? おれが景気の悪い犬のように戦場を駆け回ったのは遠い昔だぞ、戦場以外で全力疾走したのは昨夜ニレンから逃げた時くらいだ。
とおれが考えていれば、カグヤはニコニコしながら両手を合わせた。おれに合掌したところで結晶原石でも神でも仏でもねぇから、結晶にも神にも守護されなければ仏の弟子にもなれないぞ。あ、もしかしておれが祟り者――呪われたヒト――の頂点だから尊敬しているとか?
「ほう、よく分からん」
「あなたは聖戦があるから生きていられる、なら聖戦は続けなくちゃいけないじゃない。帝国にはニレンがいるから長生きできる。死なないためには戦争を続けなくちゃいけないでしょ」
「何が言いたい……」
「この聖戦が終わればこのセカイは死ぬんだよ。勝っても負けても今のままでは死ぬ。因果もなく、輪廻もなく、虚無もなく、ただの死が訪れる。それが――
こいつは何の話をしている? 月から地上を見ていたとでも言うのか。
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