闘争の鍵

 おれは……闘争の「鍵」を引き抜いた。勝てるはずのない相手に吠え、牙を剥いた。


「何も分からぬのならかかって来い敗残者よ――挑戦するならば名乗れ」


「なら喜べ、今から大英雄が殺す結晶人の名はゴミクソだ」


 おれは剣を力のみで振った。


「演舞――炎之舞!」


 最強の剣を以ってニレンに斬りかかった。


「演舞――水之舞」


 ニレンの舞でおれの舞が打ち消された。想定済みだ、おれ程度のゴミがニレンに傷ひとつ付けられるはずがない。


「その程度か次代の獅子王よ、五属の呼吸も足さばきも赤子ややこ同然だな」


 黙れよニレン。


「演舞――雷之舞!」おれはまたニレンに斬りかかった。


「何故争う、何故力で斬りかかる……」


 黙れっての! お前がそれを望んだんだろ! お前さえ存在していなければ、おれは争ってなんだよ!


 ニレンは舞すら使わずにおれの舞を防御した。分かっている、おれはニレンに勝てない。


「演舞――土之舞!」


「何故名乗らない……名も無き敗残者よ」


 黙れ! 黙れ! 黙れ!


「演舞、炎之舞! ――演舞、水之舞! ――演舞、風之舞! ――演舞…………」おれは今までにないくらい舞い踊った「演舞…………」


 そしておれは、剣を振ることをやめていた。おれの攻撃がニレンに完封されたことに加え、呼吸も乱れて舞も踊れない。


 やはり何も変わっていない、いつものおれだ。最強の剣を生み出せるのにニレンと同じ土俵に立てない――失敗作のおれ。


「かかってこい名も無き敗残者。挑戦するならば名乗れ」


 名乗れ、とニレンは繰り返し言った。


 うわあああああぁぁ! 死んでたまるか! おれはまだ死ねないんだ! 約束したんだ! おれは…………あいつと約束したんだ!


 今になって己のいのちが惜しくなった。


 それからおれは、何がしたかったのか分からなくなった。


「剣を引き抜けたとしても、それは失格にもならぬ空白だ」


 ニレンはおれを追ってきた。


「愚か者め――花が咲くには早いとしても、己の裡に咲いた剣さえまともに振れぬのなら、そなたを阿修羅の王とは認めぬぞ」という声がおれの背後から聞こえた。







<空白>懐かしい匂いだ。どうしてこんなにも温かい結晶がおれを運んでいるんだ。これが結晶なのか? こんなにもいのちを想う結晶があるのか…………ああ、どうでもいいか。


「次代の獅子王よ、不協和音の剣に何を願ったのだ……」とおれの近くで声が聞こえた。


 願い……そんなこと考えてもいない、ただおれは誇り高く戦いたかったんだ。おれのこころは間違っていないと信じて、戦って死にたかったんだ。


結晶人族シシの結晶はヒトを殺すためのものでも戦争をするためのものでもない。結晶はこのセカイを生かすための力であり、このセカイの諸人を救う心のカタチなんだ」


 おれの結晶は役に立たない偽物だ。戦場に立てず、守ることすらできず、誰の役にも立てず、おれの結晶は力もこころも宿っていない空白ばかりだ。


「あの言の葉を忘れたか……〝自ら枯れようとするな、生きろ、誇り高く生きろ〟」


 もうおれは繰り返したくない。このセカイはおれの望んだセカイじゃない。


</空白>//何もかも夢だ、夢であってくれ。


</子獅子の剣>

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