不毛
そんな風にクリティアスとエンルルは現在の新創世紀になっても不毛な戦争を続けている。世紀をまたぐという表現よりも地質時代をまたぐという表現の方が似合っている不毛さだ。帝国が保有する【聖戦記】なる分厚くて何万冊にも及ぶ戦争歴史書には、大規模だったり小規模だったりの全ての戦争が無駄な文字列で今も更新されていることだろう。記す者は無駄な文字列にならないように、(楽しく表現豊かに飽きさせないように謎を解く感じに)、と思って記しているのだろうけど、無駄は無駄で変わらないし謎を解くのも嫌になる。ということで、聖戦記を手書きする時代は大昔に置き去りにされて、フォントがユニバーサルデザイン化された今は無駄に読めてしまう。創世紀の時代なら手書きで手首を痛めていただろうけど、時代は痛覚を麻痺させ、聖戦記を嫌でも読ませようとするのだ。
質問がある? 恐竜がいたかって? そりゃあ、もちろん人間と結晶人の食料だったらしい。実際に食べたことはないが肉食恐竜は鶏肉やイノシシ肉のような味で、草食恐竜は牛肉や鹿肉のような味なのだろう。
と、今している無駄な話を無駄な話に戻して、
こうして現在に至るまで、<戦争>という言葉は流行語の上位であるのは間違いない。戦争が死語になる時は統一の果てかそれとも隠された目的を果たした先か……そう考えても結晶人のおれが学べる歴史には限界があるし、想像で物を言うと陰謀論になってしまうので統一戦争については一旦割愛するとしよう。
最初に神の怒りに触れたのが人間なのか、それとも神が理不尽な要求を人間にしたから人間は怒ってしまったのか……どちらでもいいが、結晶の国と神々の国は現在進行形で戦争しているわけだ。
簡単な話をすると、クリティアス帝国と神生国エンルルの仲はとてつもなく悪い。その仲が悪い理由は資源の話でも稲穂がよく育つ土地の話でもないわけで、どうして戦争を続けるのかは、結晶人のおれには分からない話だ。戦争をなくそうなんて努力も無駄な現代、武力で戦争をなくそうとするのが手っ取り早いとも捉えられる。
そこで、戦争をなくそうとする武力に結晶人が登場する。
結晶人の歴史が紡がれるに至る経緯は
と、結晶人の歴史の始まり同様、ニレンもおれも始まりは結晶原石と誰かと誰かの遺伝子から始まったのであって、結晶因子を使わない高純度の結晶原石をそのまま使われたことや、人工子宮で高濃度かつ高純度の結晶因子を摂取させられたこと以外では、『特に変わった造られ方をしていない』とニレンから聞いた。
第五世代の誕生までに結晶因子不適合――<結晶化>――で、人工子宮内で亡くなってしまう子や、取り出された後に結晶化してしまう子は少なくなかったらしいが……おっと失礼、素人が生命倫理を語ると怒鳴られるので止めておくとしよう。
ということで、戦争や人間の歴史と同じくらいに結晶人の歴史も長いのだ。その長い歴史を持つからからこそ、英雄と呼ばれる結晶人はニレンしか生まれていないし、失敗作と呼ばれるのはおれしかいない。つまり、人間の計算結果に間違いを示したのは第五世代のおれとニレンだったのだ。
生まれるはずのない【結晶質】――戦闘においての結晶の型――を持つ個体が実際に生まれてしまい、シミュレーションの結果だけを信じている人間たちはシミュレーションに不信感を抱いたそうだ。そこからは結晶原石を第六世代の開発に使うことを止めて、成功率が高いとは言えない第四世代と奇跡の確率の第五世代の成功確率を上げる方針へ切り替えたらしい。
結晶人創造までの経緯や本来の目的を満足に説明できないおれだが、人間たちが立てた計画――
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