咲いているのか枯れているのか

 まったくニレンの野郎、おれが警備をサボって金欠なのを分かっているだろうに。確かに仕事をサボっているおれが悪いのだが、結晶人たるもの義理人情は欠かさないでほしい。


「仕方ねぇ、おれの身に起きた取って置きの話を披露してやろう。と言っても一瞥した時の話であって、結構前から噂の百鬼夜行の魂アヤカシの話だがな。それでそちらの面白い情報と交換ってどうだ? 帝国の重役たちすら消しちまう誘拐犯の話だぞ、面白そうだろ」


「アヤカシ……特別に聞きたいわけでもないよ。そいつの顔を見たわけでもないだろ」


 なんて冷たい奴だ。せっかくおれがトークしてやるのに聞きたくないとはどういうことだ。世の中にはセールストークなるものがあるのに、聞きたくないと言われたら悲しくなるぞ。


「もしも顔を見ていたらどうするんだよ」


「アザミなら見ていても見ていなくても逃げるんじゃないかな」


 すばらしい、正解だ。現に行方不明の人間と結晶人が年々過去最高を更新しまくっているらしいから、何かしら関わりがあるのだろうとおれは考えている。殺人鬼か、それとも本物の何か。まあ何でもいいが、今の世の中ではなにがあるか分からないから逃げるが一番なのさ。


「もう結構ですよ、大英雄殿。それに無理して面白いことを言わなくてもいいんだ」


 とおれはニレンから情報を得ることを諦めた。こういう物分かりが良いのはおれの長所だ、諦める時も出来ない事を他人に押し付けるのも、おれが自分の能力を十二分に理解している証拠。結晶人のお荷物であるおれを勝手に背負おうとする奴がいるのだから仕方ないさ。


「アザミは変わったよ、残念なくらいに変わった。こどもの頃は勝負勝負ってしつこいし、逃げようともしなかったのにね」


「一生涯を頭の中お花一杯のガキで過ごすわけねぇだろ、ガキ扱いすんな」


「うん。まだ枯れていないようで安心しているよ」


 枯れたさ。病気も患ったことないのに根っこは腐って、茎も腐って、花すら開かなかった。戦場という大舞台に立ち続けられなかったおれは恥曝しもいいところ。


 と、どうしておれが自分自身をこんなにも卑下するのか? 今さらな話になるが、それは結晶人の歴史やこのセカイで起きている戦争の話を付け加えて説明しなくてはならなくなる。特別聞きたい話でもないという声も多いだろうけど、大舞台に立てないナルシストなおれが<人間たちの資源にもならないという点と失敗作と呼ばれる具体的内容>をナルシストなりに教えてあげたい。そうしなければ、おれはただのクズやらゴミで終わってしまうだろう?


 何はともあれ、歴史を追うことは世界の謎を解く鍵になってくれるわけだ。歴史の傍観者となるか、歴史を刻む役者となるか。〝解き記すはヒトの性質さが、新たに創るは神の性質〟おれはそう考えている……ニレンは違うようだが。

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