第13話 ガリア戦役四年目-2

カエサルは、それまでは誰一人考えなかった、河幅が広く流れも速いこの大河に

橋をかけ、それを渡ってゲルマン側に進攻することを考える。


カエサル「ここでもお前の土木技術の知識が役に立つな」


総司「ご期待にそえてよかったです」


資材の到着から十日後に、ライン河最初の橋は完成した。

カエサルは、両岸に充分な警備隊を置いて、軍を率いてラインを渡った。


総司「孫子三篇の二に

    [最上の戦争は陰謀をその陰謀のうちに破ることであり、その次は敵と

     連合国との外交関係を破ることであり、その次は敵の軍を討つことで

     あり、最もまずいのは敵の城を攻める事である。]

   とあります。つまり戦わずして勝つと言う事です」


カエサル「つまりこれが脅しになり戦わずに勝利するというのだな」


カエサルはすぐさまシカンブリ族の地に向う。

もうこの時点で既に、ゲルマンの部族の多くはカエサルに使者を送り、友好と

平和を求めてきたのである。

カエサルは、その前提としての人質の提供を要求する。

逃げたシカンブリ族の地には、村落を焼き払うに要した数日しか滞在しなかった。

訪れたウヴィ族の長老には、スヴェヴィ族が攻撃して来ようものならローマ軍が

助けるとした誓約を与える。

カエサルは、ラインの東に住むゲルマン民族に対しても、その分離を謀ったので

ある。

ウヴィ族からの情報では、ゲルマン民族中最強のスヴェヴィ族は、カエサルの

ライン渡河を知って、シュヴァルツヴァルトの森の奥深くに後退してそこで

待ち構えているという。

カエサルは渡河の目的はかなりな程度に達成できたとして、ガリアに戻ることに

決めたのである。

橋は、渡った後で破壊させた。

橋をかけてのローマ軍初のゲルマンの地への進行というデモンストレーションの

余波か、その年のカエサルは、夏の終わり近くなってからもう一つの進行を

試みる。

ドーヴァー海峡を越えてのブリアニア[現在のイギリス]進攻である。

ブリタニア進攻の理由は、ガリアでの戦闘には常に、ブリタニアからの支援が

あったからである。

この支援を断ち切る必要がある。


カエサル「今回俺はブリタニアをローマの覇権下に組み入れようと思う」


総司「孫子二篇の二には

    [戦争の上手な人は、国民の兵役は二度と繰り返しては徴発せず、

     食糧は三度と国からは運ばず。軍需品は自分の国のを使うけれども、

     食糧は敵地のものに依存する]

   ともあります。ここはこの策をブリタニアに使用し彼らを最終的に見方に

   になるように取り込みましょう」


ブリタニア進攻を控えて船団の準備が整うのを待っている間にも、進攻の

伝えを聞いたブリタニアの諸部族が、カエサルの許に使節を送ってきた。

ローマの覇権を認め、その証しとして人質を提供すると伝えるためである。

カエサルはそれらを受け入れ、その答えを持った使者がブリタニアに帰る際、

二年前に信頼して部族の長にしていたガリア人のコミウスを同行させた。

コミウスの任務は、カエサルの進攻も間近いことを告げ、出来る限り多くの

部族をローマ側に引き寄せることである。

更に好都合なことには、ブリタニアへの出港地一帯に住むモリニ族の多くが、

カエサルへの恭順を誓ってきたことだった。

これでドーヴァー越えも、背後の憂いが無くなる。


総司「孫子第三篇第十二章に、

    [継続的に、小出しに兵力を使用して効果を収めようとする方法は

     認められない。

     つまり、一回の戦闘に必要な全兵力を同時に使用する事が戦争の

     根本原則でなければならない。]

   とあります。兵の逐次投入は戦線の拡大を招きます。

   ここは出来る限りの兵力を一回で投入しましょう」


カエサル「今回は調査行として出兵する」


総司「そうだったのですか」


ブリタニアへの遠征は、第七と第十の二個軍団に騎兵、その輸送には、

まず二個軍団の輸送に充分と思われる八十隻の輸送船、そして、風に邪魔

されて12km離れた港に入るしかなかった残りの十八隻の輸送船には、騎兵団

を分乗させることにした。

紀元前55年8月末カエサル軍はブリタニアへ出港した。

そしてカエサル軍はブリタニアの狭い海岸の背後は高く切り立った崖がそびえ

立ち、その上には一面に武装したブリタニア人が待ち構えているところに

到着したのである。


総司「孫子九篇の二に、

    [丘陵や堤防などでは必ず日当たりのより東南に居て、その丘陵や

     堤防が背後と右手になるようにする。これが戦争の利益になる

     ことで地形の援護がある。]

   とあります。ここは敵兵に有利に働きます」


カエサル「ああ、この地は上陸地点には適していないな」


夕方近くになり、カエサル軍は11km程行った地点に、平野に続く海岸が

あるのを調査していたのでその前に錨(いかり)を降ろす。

しかしこの地にも、上陸しようとしていたローマ兵に対し、平野であるがゆえ

に駆使も可能な騎兵と二頭立ての戦車で敵は襲ってきたのである。

海岸線をはさんでの、激闘が始まった。

ローマ兵は、隊列を組むことも足場を確保することも、自分の隊旗のもとに

集まって闘うことも不可能な状態で善戦した。

ローマ軍は上陸しだした。

陸地に足が着けば、闘いはローマ兵のものである。

たちまち隊が組まれ指揮系統も明確な形での攻撃が開始された。

ブリタニア人は逃走するしかなかった。


総司「以前言った様に戦争論第四篇第十二章に、

   [第一に、追撃を行わなければどのような勝利もたいした効果をもたら

    さず、第二に、勝利への道のりが短くても、勝利の成果は何度かの

    追撃をまって初めて生じるものだ。]

   とあります。追撃できるならすべきです」


カエサル「しかし騎兵団を乗せた船団がまだ到着していない。追撃は無理だ」


総司「うう、残念ですがそれなら仕方ありません。今回はあきらめましょう」


それでも、一旦は逃げたブリタニア人は、カエサルの許に講和を求める使者を

送ってきた。

カエサルはこの講和の申し出を受ける。

そして夜を迎えた。

その夜は満月だったが、大洋では満月の夜、潮の満ち干の差が最大になるのだと

いうことを、ローマ人は知らなかった。

カエサルが、浜辺に挙げておくよう命じたガレー船は、急激に満ちてきた海水に

さらわれて沖に流され、沖合に錨を降ろしていた輸送船団も、激しい風とのた

うつ海にもてあそばれ、どうしょうもなかった。

その結果多くの船が破壊され、他の船も、錨を引きちぎられたり、ロープを

流されたりして、航行もできないよな状態になった。

そしていち早くローマ軍の現状を知ったブリタニアの各部族は、恭順の誓約を

反故にする気になり、ローマ軍が二度とブリアニア進攻など考えもしなくなる

ように、ここで総力をあげて撃退することで一致していたのである。

この危機を脱するのに、カエサルは、自力で脱出する策をとる。

ローマ軍は船の修理に取りかかる。

修理作業が完了しない前に、ブリタニア人はローマ軍を攻撃してきたのである。

カエサルは知らせを受けて、陣営地の守りには二個大隊のみを残すよう命じ、

自身は四個大隊を率いてただちに出発した。

残りの四個大隊も武装が整いしだい続くように命じる。

ローマ軍第七軍団はブリタニアの騎兵と戦車に包囲され出した。

しかし、カエサルの敏速な到着と、彼に率いられていた第十軍団の勇猛果敢の

前には、ブリタニアの戦車も対抗できなかった。

ブリタニア兵たちは、戦車にかけ乗って逃げ去った。

しかし、騎兵団を持たないカエサルには追撃も出来ない。

ブリタニア人は日を改め再度襲撃してきた。

今度は、ローマ軍の陣営地への攻撃である。

カエサルは二個軍団のほとんどを投入して、陣営前に布陣して迎え撃つ。

今度の戦闘は、はじめからローマ側に有利に展開した。


カエサル「今度こそ追撃する」


総司「はい。その必要があります」


敵は敗走し、ガリア兵から騎兵を数十騎かりていたため可能な限り追撃した。

この戦闘の後、ブリタニア人たちは再び、講和を求める使者を送ってきた。

カエサルは前のときの倍の数の人質提供を命じ、それをガリアに送ってくる

ように言い渡したのである。

そしてカエサルはブリタニアを発った。

こうして一回目のブリタニア遠征が終了したのである。

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