寂寞

鈴乱

第1話


 あぁ、そういや、忘れてたな。


 人は大事な者のためには何にだってなれるんだ。



 僕は――、裏切り者だ。

 

 大事な人の手を肝心な時に離した。



―――


 そう。


 人は、大事な者のためには何にだってなれる。


 それは、「人」に生まれた僕だって同じ。



 僕は、この先で、君を救わなきゃいけないから。


 今は、君の手を離すのが最善だと、判断したんだ。



 そして、僕は悪役ヒールになる。



 誰からも信用されない、そんな悪役ヒールに。



 それが、君の苦しみを周囲に分かってもらうには、一番いい方法だろう?


 僕が悪役ヒールなら、君は英雄ヒーローだ。


 悪役ヒールに惑わされて、ひどく傷を負った英雄ヒーローだ。


 悪役ヒールはさ、悪役ヒールらしく、英雄ヒーローに倒されるのが筋書きだろう?



 変な同情なんてしないでくれよ? 

 

 僕は英雄ヒーローみたいに装ってきた悪役ヒールなんだ。


 本当の英雄ヒーローは君で、偽物の英雄ヒーローが僕。



 僕の裏切りで分かったんじゃないかな。


 英雄ヒーローだったのは、どっちだったのか、ってことがさ。


 周囲の人は、きっと君に味方する。


 僕が騒げば騒ぐほど、「こんな奴と一緒だったから、あの子はこうなった」。

 そう言ってくれるさ。君の味方になってくれる。


 君の、積み重ねてきた行動が正しかったなら、人は君の味方につく。

 君が、人に真摯に向き合って、受け入れて、愛してきたのなら。



 いいかい、英雄ヒーロー。決して悪役ぼくを救っちゃいけないよ?


 そしたら、君まで悪役ヒールに堕ちていく。


 僕はそんな君は見たくない。


 見たくないんだよ。

 


 君は英雄ヒーローのまま、この世界でキラキラと輝いてくれなくっちゃ。


 ……そうでなきゃ、悪役ヒールを演じた僕が、あんまりにも報われないじゃないか。

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寂寞 鈴乱 @sorazome

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