【ツイッター大喜利詰め合わせ】

野村絽麻子

サイコバニー小説

【出題】

 みなさんは自分を主人公として、サイコバニーと仲良かった10代のあの頃を書いてください。(姫路りしゅうさんより出題)



 *


 隣のクラスに気になる人がいる。文化祭の片付け作業で慌ただしい秋の放課後だった。唐突に、幼馴染のユリちゃんがそう言った。その時の私たちはクラス展示のパネルを解体しているところで、私とユリちゃんは装飾用の花の取り外し作業をしていた。窓から流れ込んだ枯れ葉の匂いを含んだ風が、しおれた花飾りをカサカサと揺らして通り過ぎる。

「誰なの、それ」

 たぶん聞いて欲しいんだろうからと水を向けたのに、ユリちゃんはしばらく回答を渋り続け、私は無性に腹が立って手元にあったゼムクリップを静かに繋げていった。

 あらかたのクリップが一列に並んだ頃、ユリちゃんが「姫路君」と小さい声で短く言った。私はげっそりした。

「姫路君って、あの姫路君のこと?」

「ひ、姫路君は一人しかいないよう!」

 連呼されても困る。姫路君は、今年の文化祭の台風の目だった人物だ。

 なにしろ、女装でミスコンの舞台に乱入した挙句、学年で一番人気の女子生徒が付けていたウサ耳カチューシャを奪い取って装着し、「でも僕の方がカワイイでしょ?」とかまして会場を大いに沸かせた。しかも、その時隣にいた草森くんの「サイコパスじゃん……サイコバニーだな」との呟きをマイクが拾うなどして、サイコバニーコールを巻き起こした渦中の人物だったからだ。


 アレがどうしてユリちゃんの気になる人にノミネートされちゃったのかは知らないが、私としてはオススメし兼ねるところなのだ。

 だってアレは危険だ。私は見てしまったのだ。先月だったか、放課後の夕陽が射し込むめちゃくちゃムーディーな教室で、彼らがチュウしている所を。彼らって言うのは、つまりは件の姫路君と、そのお友達とされる稲荷君だ。チュウした後、はちゃめちゃに真っ赤になった稲荷君とは対照的に、姫路君は平然とした顔で、しかも薄らと笑っていた。それで、廊下に突っ立っている私に気がつくとウインクした。それだけの事だけど、私のサイコパスメーターを振り切るのには充分だった。


 それで月日は流れて今日の話になるんだけど。

 偶然入った本屋で同じ本に手を伸ばすっていうベタな再会をしたのがサイコバニーこと姫路君で、彼ときたらあまりに普通の会社員に見えたから最初はわからなかったくらいだ。

「ねぇ、あのゼムクリップさぁ」

 こちらがなにも把握していない内に彼は言った。

「繋げたの、君でしょ。俺、担任からかなり怒られたんだけど」

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