初めての彼女と日記の中身
「あの子の日記、最初はそんなつもりは無かったのだけれど、書き始めてから終わりまで、その全部を呼んでしまったわ。そのせいで昨日は寝不足でね。おかげでこのざまよ……でも、私の知らなかったあの子のことを、よく分かって上げられた気がする」
アイスを食べるのも忘れ、
「……あの子の日記はね、日に日に文量を増して行ったわ。一日二ページ、三ページ、四ページ。ただね、それと同時に書き忘れる日も、増えて行ったのよ。一週間書いていない日もあった。それに気付いたらその分、たくさん書いているようだった。どうしてだか、分かる?」
「えっと、どのくらいから文量が増えていたの? 頼斗君と付き合いだしてからなら、もしかして、闘病で、とか?」
「おしい、かも。あの子は三年生になるまで、長い入院とかは一回もしなかった。私は中学二年生の冬頃から、あの子の具合は悪くなっていたんだと思った。けど中学二年生の秋頃からすでに、あの子には酷い症状が出始めていたらしいわ」
目を伏せて、悲しそうに
「記憶が、曖昧になり始めていたのよ。少しずつ忘れだしていた。日々のことを、昔のことを」
「……え?」
その言葉の意味を理解するのに、少しだけ時間がかかった。当然だろう、
「少し調べてみたのだけれど、記憶を失う原因の中には病気やケガだけじゃなくて、強い負荷、ストレスもあるって。あの子の体には、それだけのストレスがかかっていたのよ」
「そ、っか……そんなに辛くて、苦しかったんだね。でも、当然だよね。だって
「ええ。私たちが動くよりもずっと早く、あの子の体は蝕まれていた。辛い症状に耐え続けて、思い出が薄れていくことさえあって、それでもあの子はずっと、私たちに笑顔を向け続けていたのよ。玲奈に言っても、実感し辛いかもしれないけどね」
「うん、そうかもしれない」
その笑顔のことは、私には確かに伝わらない。きっとずっと近くで見ていた
それでも、想像してしまう。
「毎日苦しくて、大切な思い出も忘れて行って。そんな中で、ずっと過ごしているなんて、私には無理だよ」
「……私にも自信はないわ。いいえ、無理でしょうね」
そこまで言って、
「あり得ないのよ、あの子は。それだけのことになりながら、誰に助けることもしなくて、ただ、必死に毎日を生きていた。少しだけ、あの子がどうしてらい君にあそこまで執着していた理由が分かったわ。あの子がらい君に求めたものは、彼氏っぽい態度」
頼斗君はよく言っていた。
「そして、自分だけを愛すること。
ずっと覚えていて欲しいから。ずっと忘れられたくないから。だから、他の誰でもない自分のためだけに、自分のためだけの彼氏でいて欲しかった。そう望めるくらいには、頼斗君のことが大好きだったのだ。
それを求めてしまうくらいには、それで安心してしまうくらいには、本気で頼斗君を愛していたのだ。
「玲奈にこんなことを話すのは、あんまり気が進まなかったのだけれど、私も誰かに話したいと思ってしまった。ごめんなさい」
「ううん、むしろありがとう。話してくれたおかげで、もっと
「私も、今まで分かっていなかったことがやっと分かった気分よ」
「……
「そんなことすら、自分では分からなかったかもしれないわね」
「あの子の人生はとても短くて、それでいて密度の高いものだった。毎日を楽しんでいたその裏側で、暗く冷たい出来事がたくさんあった。毎日自分の不調と戦って、その不安に記憶さえ苛まれて、その苦しみから解放されるために、らい君に愛を求めた。……あの子は、どこから間違えたのかしら」
私の心のどこかでも、ずっと分からないって何かが呟いている。でも、それでも頼斗君を好きだって言う私の心が本物ならば、きっと正しいんだと思う。少なからず、間違ってはいないのだと思う。
「ううん、間違えてはいないよ」
「え? それは、どういう……」
「だって
その気持ちは不純でも、不誠実でもない。
「私たちは好きになって欲しいから、頼斗君を好きになったんだよ。だからこの気持ちは、
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