お星さまシスターズ

「ちょ、ちょっと離してって!」

「いいじゃないか。一緒に風呂も入った仲だ」

「いつの話!?」

 

 朝見あみと取っ組み合いごっこをしていると、勢いよく部屋の扉が開いた。


「ども~! 失礼します!」

「ます!」

「お星さまが朝焼けの笑顔を盗みに来ました!」

「ました!」


 そして、大仰な立ち振る舞いとポーズで以てして、美空姉妹が登場した。


「って、頼斗?」

「あ! らい兄も来てたんだね! もう元気? 大丈夫?」

「おう、俺は大丈夫……で、お前たちはどうしたんだ?」


 正直いきなりの登場過ぎて理解が追い付いていないのだが、二人も朝見あみを心配してやって来た、ってことでいいんだろうか。


「もちろん、朝見あみちゃんを元気づけに来たんだよ!」

「うん! 朝姉あさねえ、落ち込んでたから!」


 元気な笑顔を浮かべながら、星空にも負けないくらいに目を輝かせながら言ってくる姉妹に、俺まで元気づけられた気分になる。まあ、声のボリュームもう少し落としては欲しいが。


「でもね! 頼斗と楽しそうにじゃれ合ってるし!」

「じゃれ!?」

「くっついて仲良しだし!」

「くっつ!?」

「なんか髪切ってるしで私はとっても混乱してるの!」

「あんまりそうは見えないんだけど!?」


 結局声のボリュームを落とすことなく言い終えた星座むすびは、ほんの少し責めるような視線を浮かべてこちらを見た。


「ちょっと頼斗。新しい彼女さん作ったばっかりなのに弱った朝見あみちゃんにまで手を出そうってんじゃないでしょうね」

「人聞きの悪い……」

朝見あみちゃんこう見えて単純だからすぐに勘違いしちゃうんだから!」

「ちょ、ちょっと星座むすび怒るわよ!?」

「もう怒ってるくせに!」

「誰のせいだと思ってるの!?」


 朝見あみまで声を張り上げ始めてしまった。

 二人の口喧嘩はいつものことなので放っておこうと眺めていると、いつの間にか流星すすみが隣に座っていた。


朝姉あさねえとらい兄、仲直りできたみたいで良かったよ」

「ありがとな。まあ、元々俺と朝見あみの仲だったし、言質は取ったけどお互い相手のことが嫌いになったわけじゃなかったからさ。ちゃんと話が出来れば、こんなもんだよ」

「そっかぁ、本当に良かった。朝姉あさねえ、この前は結局お姉ちゃんと口喧嘩を一回もしなかったんだよ?」

「本当か? この二人が?」

「「ねえ、らい君(頼斗)は私たちのことを何だと思ってるの!?」」

「……息ピッタリだなって思ってるよ」


 大きな声で叫ばないで欲しい。病み上がりの身には辛い。


「……まあ、その。一応、言っとくね」


 ようやくボリュームを落としてくれたと思ったら、朝見あみは気不味そうにそっぽを向きながら、ちょうど俺たち三人に聞こえるくらいの声量で言った。


「みんな、心配かけてごめん。あと、ありがと。おかげで元気出た」


 僅かに頬を染めながらそっぽを向く朝見あみは、唇を尖らせながら言う。決して目を合わせることはなく、その両手を後ろで組みながら。短くなった黒髪の、揺れるままに。


「何よもぉ! きな臭いわね!」

「おい星座むすび、それ違う。それを言うなら水臭いだから」

「あははははっ! おね、お姉ちゃんきなく、きな臭いって、そ、そりゃないよ! あはははははははははっ!」

「ちょ、ちょっと間違えただけでしょ!? 笑わないでよ!」

星座むすび、ちょ、それはないわよ……ぷぷぷっ」

「ちょっと朝見あみまで!?」


 爆笑だった。朝見あみも声を上げて笑ってた。ほんのちょっと枯れてた声も気にならないくらい爆笑だった。

 流星すすみは言わずもがなだった。姉を嘲笑うがごとく笑い続けた。可愛い顔が歪むくらいに笑ってた。ちなみに爆笑されてる側の星座むすびは鬼の形相で照れ隠しも込みで叫んでいる。頬が赤いのは、間違えた恥ずかしさと怒りのせいだろう。二人とも見っともない姿をしてるのに、総合的に見て可愛いのはなぜだろう。美空姉妹恐ろしきなり。


「はぁ……静かにしてくれ、頭に響く」

「ちょ、ちょっと何よ! 頼斗のせいで笑われてるんだよ!?」

「なんで俺!? 濡れ衣を着せるなよ!」 

「そうだよお姉ちゃん、らい兄何も悪くないじゃん!」

「まあ、いっつも二人のコンビコントだからね。ふふっ」

「「お前(朝見あみ)もこっち側だろ(よ)!」」

「ええっ!?」


 ああクソ、昔の調子で一緒になって叫んでしまった。酸欠気味で息が詰まるし、正直頭痛い。だけど、だけど――


「お前ら騒がしいんだよ! 静かにしろ!」

「「「頼斗(らい兄)(らい君)もでしょうが!」」」

「ぷっ、あはっ、あははっ!」

「もう、頼斗ってば! ふふっ!」

「らい兄おかしい! あはははっ!」

「みんな、何も変わってないじゃん!」


 ――この時間がどうしようもなく、面白いんだ、楽しんだ。だから頭痛いのなんてどうでもいい。こんなに笑ったのは、久しぶりだから。


 ああ、俺笑えてる、笑えてるよ夜見よみ。お前の言う通りだったな。


『らい君、新しい彼女さん作って、幸せになってね。ずっとずっと、笑っててね。私にとって、らい君と一緒に過ごしたのと同じくらいの幸せな時間を送って。それが私とらい君の、約束だよ』


 夜見よみ、お前との約束を、俺は絶対に忘れない。この約束を果たした先に、お前と過ごした幸せと同じだけの幸せが待っていると信じてるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る