第24話

 テラスでのティータイム中に、突如現れたオーウェンがあからさまな牽制をしたことによって、男性陣は特にルティに対して慎重になった。


 しかし、それでも騎士や使用人たちから花束が毎日送られ、部屋中が花やお菓子だらけになっていく……。


 そんなことをしれっと報告してきたので、オーウェンはレイルをじろりと睨んだ。


「レイル、お前も彼女の部屋で毎日茶をするほど暇なようだし、仕事を増やそう」

「ルティ嬢に変な虫がつかないか、率先して見守っているっていうのに」

「昼食をつまみぐいしに行ってるだけだろう」


 ぺろりと舌を出したレイルに、オーウェンは困ったなと息を吐いた。


「君が食べたいと言ったとかで、ルティ嬢は厨房にこもって美味しいプリンを研究しはじめたよ。健気だねぇ」


 彼女はただの『偽恋人』なのに、と言われてオーウェンは頭を抱えそうになった。たしかに、彼女は『偽物』の恋人だ。


 だからシナリオ通りに彼女と破局するまでは、意地でも関係を徹底する必要がある。ルティがオーウェンのためになにかをやっているのは、パフォーマンスとしては完璧だ。


 でも、ひとたびこの茶番劇が終われば関係を維持する必要性はない。だから、ルティがやっていることは契約外のオーバーワークだ。


「ちなみルティ嬢のタイプは、優しくて頼りがいがあって、大事にしてくれる人って言ってたよ。これは彼女の本音だと僕は思う」

「聞いていないことをぺらぺらと。口を閉じてこれを王都へ送る準備をしてくれ」

「オーウェン。真面目な話、ルティ嬢のことかなり気になっているんじゃないの?」


 レイルはオーウェンを見つめてくる。一拍の間をおいて、オーウェンは口を開いた。


「わからない。ただ、人に触れるのが怖いと初めて思った」


 痛いから触れたくないと思ったことは数えきれないほどある。


 どうせ誰もが自分に対して下心があるのだろうとわかっていたから、触れれば絶対に痛むのがわかっていた。


 だから、相手に触れるのを怖いと思ったことは一度もない。


 しかし、ルティに触れる時には躊躇ってしまうのだ――痛みを、拒絶や下心を恐れて。


「触れてみたいのに怖いと思う。こんなのは今までなかった」

「そういう気持ち、僕はオーウェンには大事だと思うよ」

「でも、彼女は弟の学費のために引き受けただけの報酬目当ての『恋人役』だ」


 オーウェンの言葉に、レイルはあきれたように大きくため息を吐いた。


「そんな傷ついた顔するなら、そういうこと言わなきゃいいのに。まあ、ルティ嬢なら触っても痛くないと僕は思うけどね」


 どうするかは任せるよ、とレイルは微笑んだ。

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