激安霊感商法!(7)
『ただいま、空き巣警報発令中。戸締りをしっかりして出掛けてください』
なるほど、と思った。警察が職質してきたことに関しても理由が分かる話だ。どうやら出掛けている隙に家から貴重品などが盗まれているとか。
となると、ふと思う。もしかして、あの二人組。いやいやとすぐに首を横に振った。僕が窃盗犯だったら、安く売りさばくなんて馬鹿な真似はしない。折角盗んだのだから、足が付かないように裏社会にでも売り払って、大儲けするだろう。
ならば、義賊か。
盗まれたものを逆に取り返そうとしているのか。いや、これも違う。そうであれば、盗まれた人から金を貰おうだなんて思ってはいないだろう。そもそも朝子さんやあのお婆さんは誰かに骨董品を奪われたなんて過去もないと思われる。
気付けば、女がいる家の近くまで歩いてきていた。ただ、しおらの説明が曖昧ですぐに場所は分からない。似たような場所がありすぎて、ただただ住宅街を回るだけ。
途中で疲れすぎて一回休憩。自販機の置いてある公園で一服することにしたのだが。ジュースを買おうと硬貨を入れる。しかし、出てこない。
「えっ、ちょっと待って……?」
つり銭が出る場所を捻っても、自販機を軽く小突いてもお金が返ってくることはない。残念。近くに水のみ場があるからそちらに移動しようと思うも、今度は水が出てこない。喉が渇いたのに何も与えられないとは、辛い話だ。
神様は僕に何をしろと言っているのか。休んでいる場合ではないぞと語り掛けているのか。しかし、このまま当てもなく動き続けていても答えが見当たらないのだ。アイデアも何もない。
せめてもとベンチに腰掛ける。
少しでも体力を回復させようと一息つこうとしたのだが。ぐにゃと背中に変な感触を覚えていた。
いやいや背中の感触を確かめると、ペンキのようなものが手に付いた。
「マジか……」
立とうとするもペンキが僕を離してくれない。かといって服を脱ぎ捨て上裸で帰る訳にもいかない。皆様に僕のビューティフルボディを見せつけなんてしったら、速攻で職務質問。悪ければ、交番か警察署に連れていかれてしまう。
その上でベンチの足がぐらぐらして、こちらの背中が引っ張られていく。このままではベンチごと後ろにひっくり返ると逃げようとしたものの、地球の引力には敵わない。
バタリ。
頭に一発衝撃を受ける。
そして僕の魂は異世界に移行した。
何度目の異世界。僕はもう頼るべき人の家を知っている。それでいて守るべき人を。気掛かりだったのが幽霊騒ぎだ。
メアは幽霊を相当怖がっていたみたい。最後に幽霊と出くわしてしまったのだが、問題はなかったであろうか。かといって、あの少しお茶目な幽霊がメアに大きな危害を及ぼすとも考えにくかった。
その答えを知るために家の戸を叩く。
「はーい! あっ、サインくん!」
明るいメアの声と同時にもう一人登場。
「こんにちはー! あっ、突然消えた子!」
幽霊が煙のような足の部分をゆらゆらさせながら、僕の方を見つめてきた。そんな表情にニコッとするのは、怖がっていたメアだった。
「って言っても、本当、サインくんは消えたくて消えるとかはできなくって。別に見捨てた訳とかそういうのじゃないからね!」
「はいはい。さっきから何度も聞いてますよー!」
先程までは喋らなかった幽霊がハキハキ口を動かしているのを見て、心から衝撃を受けた。その上、意外にもメアと幽霊が仲良くしていることに関しても驚いた。
幽霊が苦手ではなかったのか。
僕が首を捻っていると、彼女はこちらを玄関から二階へ移動させる。それから彼女の紹介をしてくれた。
「彼女はどうやら、ユーカリさんって言って幽霊の仲間みたい」
「どうも、ユーカリでーす! ちょっと訳あって幽霊やってます!」
手を振るまでにノリノリな彼女。一体何が起こっているのか僕の空っぽな脳みそでは理解ができなかった。
「な、何でそんなに。怖がってなかった?」
するとユーカリさんが「何ちんけなこと言ってるのよ」と背中を勢いよく叩いてきた。
痛がっている僕のことなど知らず、メアが彼女との絆を紡いだ理由を口にする。
「ユーカリさん、迷って漂っていたんだって! 幽霊だから何処にでも透けて入れちゃって……風が強いから外に出たくなかったってことなんだって!」
メアは優しい。そんな困っている彼女を放っておけなくて、面倒を見ていたのだろう。
では心霊現象全てが彼女のせいだろうか。
またもや下からドタドタと変な音がする。
「じゃあ、これもユーカリさんの得意技かぁ」
なんて言ったものの、彼女は目を点にしている。
「知らないんだけど……今の自分にできるのは透けて通れるっての位。幽霊になってから、まだそんな時間が経ってなくて、ラップ現象、ポルターガイストなんて全然できないのよ」
「へっ?」
メアもてっきり全てユーカリさんのせいだと思っていたのか。青い顔をして震え出した。
「えっ、じゃあこれ、何?」
彼女こそ、今霊感商法の骨董品を売ったら買ってくれるのではないかと思った。
同じく幽霊のユーカリさんでも怖がっている状態だ。
「悪霊退散悪霊退散、幽霊なんて幽霊なんて……」
幽霊自身が怖がってどうするのだろうか。友達とのことで何とかならないのだろうか。
そもそもメアも幽霊が友達であるのに対し、別の幽霊を怖がるとはどういう神経か。
もう僕に関しては怖くなくなっている。元の世界では幽霊を利用して人間が不思議なことばかりやっている。幽霊よりも実在している人間の方が怖いものだ。
「ちょっと見てくるよ」
そんな僕に感化されたのか、メアが体に引っ付いた。しおらとはまた違ったフローラルな香りが僕の体に纏わりついた。柔らかい感触もして、不思議な気分に落ちていく。
「わ、わたしも行く! わたしも確かめたい! ユーカリさんはいい幽霊だったんだもん。きっと他の幽霊だって本当は悪いものじゃなかったり……」
メアの勇気に影響され、ユーカリさんも深呼吸して発言した。
「そ、そうね。同じ幽霊なら話せるかも……同じ幽霊なら悪霊だとしても対処法が分かるかもしれないし! 私も行く!」
ヒヤッとした感触がこちらの右腕に襲ってきた。しかし、恐ろしいのは最初だけで慣れてしまえば、心地良い気もする。
女性二人。何だか緊張する中で僕達はそろりそろりと下へ向かうことにした。
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