忌まれたお面の呪い ― 田村家の末路

O.K

第1話:忘れた罪

田舎町・鳥居村。そこは美しい自然と風物詩が溢れ、季節ごとに異なる風習が息づく場所だった。特に夏になると、村の住人たちは伝統的なお面を家の玄関先に飾ることが慣習となっていた。これは、夏の厄災を避け、家族の無病息災を願うものだった。


ある年、鳥居村に住む一家が、お面を飾ることを忘れてしまった。その家族は父親の田村家で、父親の信一、母親の美智子、そして小さな息子の太郎の三人暮らし。信一は忙しい仕事に追われ、美智子は家事と育児に追われていて、どちらもお面のことを忘れてしまったのだった。


夏が深まり、鳥居村は美しい風景に包まれていたが、信一の家には不穏な気配が漂っていた。家の中はどこか不安な空気に満ち、夜になると奇妙な音が聞こえてくるという噂が広まった。


最初は些細なことだった。家の中で物が落ちる音、風が吹く音、夜中に聞こえる小さな足音。しかし、次第にその音は恐ろしいものへと変わっていった。信一と美智子は眠れない夜を過ごし、太郎も不安げな様子で眠りを妨げられていた。


そしてある夜、信一が寝室から異様な光を目にした。怯えながらその光を追いかけると、屋根裏部屋に続く小さな扉が現れた。信一は心臓が高鳴る中、その扉を開けると、そこにはお面がびっしりと張り付けられている光景が広がった。お面は悪戯っぽく笑っているようにも見え、信一は恐怖のあまり声を上げてしまった。


それ以降、田村家では奇怪な出来事が次々と起こるようになった。家の中では物が勝手に動き、夜になると不気味な囁き声が聞こえるというのだ。信一は友人たちに相談し、神主にも助けを求めたが、どれも効果はなかった。美智子はますます神経をすり減らし、太郎はもはや眠ることもできないほどの状態に陥っていた。


そしてある晩、信一はついに忍耐の限界に達し、屋根裏部屋に飾られていたお面を一枚ずつ取り外すことを決意した。しかし、お面を外すたびにその恐ろしい囁き声が増していく。信一は汗まみれでお面を取り外し、最後の一枚を外した瞬間、恐怖の頂点に達し、意識を失ってしまった。


目を覚ました信一は、目の前にそびえ立つ影を見て絶叫した。それは、信一自身の顔に似せたお面をかぶった、歪んだ笑みを浮かべた太郎だった。太郎の瞳は真っ赤で、異様な存在感を放っていた。信一は恐怖で声も出ず、その光景を見つめるしかなかった。


太郎はにやりと笑い、ゆっくりと信一に近づいてきた。信一は身体を震わせながら後ずさりし、とうとう自分の逃げ場を失った瞬間、太郎が突然姿を消した。


信一は地べたに倒れ、その後ろから聞こえてくる、あの恐ろしい囁き声が再び始まった。声は次第に大きくなり、信一は理解できない言葉が頭の中で響き渡るのを感じた。そして、その声が信一を飲み込むようにして消えていった。


翌朝、田村家の家族はどこか違う表情で発見された。信一は理性を失い、意味不明な言葉を繰り返し、美智子と太郎は忽然と姿を消してしまったのだ。


鳥居村の住人たちは、その後も田村家の家に近づくことはなく、恐ろしい話は次第に村の伝説となっていった。お面を忘れた一家の末路は、村人たちの間で「忌むべき運命」として語り継がれ、その家は呪われた場所として忌み嫌われるようになったのだった。

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