4-6

 フロッググリムフォレストへの侵入に成功したヴィオレとスカーレットは、安全なはずのこの経路で、何度もモンスターに遭遇していた。


「また出てきたっ!」

「いい加減にしてよ、もう!」


 今度は鋭い牙と爪をもった90cmくらいの蛙型モンスターだ。このモンスターは図鑑で見たことがある。

名前はサーベリウスフロッグ。高い防御力を持っていて物理攻撃は効きづらいと書いてあった。

 ほとんどの蛙型のモンスターは、火属性に弱いはずなので、スティックを突き出し火炎魔法を放つ。

 火はサーベリウスフロッグに直撃した。

 だが、ほとんどダメージは受けていない。


「嘘……」


 呆然自失になったヴィオレに、サーベリウスフロッグは爪を突き立てて向かって来る。

 だが、スカーレットがその間に入った。


「やあ! たあ!」


 木刀で滅多打ちにされたサーベリウスフロッグは、すぐに動かなくなった。


「おっし!」


 勝利の余韻に浸る余裕もなく、今度は15cmほどの黄色い蛙数匹に囲まれる。

 すぐさま撃退しようとしたスカーレットを、ヴィオレは慌てて静止した。


「スカーレットだめ!」


 あれはエレクトロフロッグ。身体から雷属性の攻撃を出す特性を持っているはずだ。

 そんなモンスターを直接攻撃したら……。


「アバババ」


 やはり感電した。

 スカーレットを助ける為、全てのエレクトロフロッグがいる位置を確認して地面にスティックを突き立てた。


「えい!」


 エレクトロフロッグの足元は沼地に変わり次々と地面に飲みこまれていく。


「ありがとうヴィオレ」

「ワタシも助けられたから気にしないで」


 2人は互いを励まし合いながら、アクアリーフが生えている池を目指した。



「ちくしょう」


 コウスケは、地下水路から侵入してきた3人組を見つけるなり、すぐに殴って縛り上げた。

 悔しそうな目で睨んでくる三人に向かって、にたにたと笑いかける。


「てめえらの報奨金は合計3万Gだ。10万Gくれて大人しく帰るなら解放してやる」


 普段ならばもっとカネを吹っかけている。

 だが、こいつらとは別に2人組のグループも侵入している様だ。

 そいつらからも早くカネをとりたいので、敢えて良心的な価格を提示してやった。


「そんなカネねえよ……」

「うーん、じゃあお前らの人数を1人多くして、そいつは逃げたって報告書に書いておくか」

「は!? どうしてそんな事を」

「そいつがアクアリーフを持って逃げたって事して、俺が1つ持って帰んだよ。ついでにお前らの罪も増えて報奨金も8万Gくれえに跳ね上がるしな」

「そんな事をしてバレないと思ってんのか?」

「へへへッ罪人の言う事なんて誰が耳を貸すのかね」


 ハッタリだった。

 実は、密猟者に罪を着せてアクアリーフを持ち帰ることは何度もやっている。

 だが、やり過ぎてしまい、上に目をつけられしまった。

 証拠は全てもみ消したがリスクの高いので、今後はやるつもりはなかった。


「……財布には5万G入ってる。俺だけでも解放してくれ」

「てめえ!」

「コイツはゲス勇者だ。関わらねえ方が良い。お前らも早くカネを出した方が良いぞ」

「……ちくしょう」


 密猟者達は悔そうに、財布を差し出してきた。


「へへへ、儲け儲け♪」


 奪い取った金額を数えながら、2人組がいるであろう場所を目指して歩き始めた。


「おい! カネ渡したら縄ほどいてくれるんじゃねえのか!?」




「ねえ見て!」

「ついにたどり着いたのね」


 スカーレットが指さした方向には、水面一面がアクアリーフで覆われている池が広がっていた。

 たどり着いた嬉しさから、ヴィオレは一直線に駆けていく。

 アクアリーフに手が触れられそうな距離まで近づいたその時、池から巨大な蛙型モンスターが現れた。

 ヴィオレは突然の驚きと恐怖で身動きがとれない。


「しっかりして! ヴィオレ!」


 蛙の横腹をスカーレットが木刀で突いた。

 ヴィオレはハッと我に返り蛙から距離をとる。

 スカーレットの攻撃に蛙は一瞬ひるんだが、ダメージを受けた様子はない。


「ごめんなさい」

「らしくないよ」


 気持ちを切り替えて、襲って来た蛙を観察した。

 この1.2mにもなる大きな蛙型モンスターはフェルズトード。普段は大人しく、人間を攻撃することはない。だが、この時期は産卵期なので攻撃的になっている。

 また、捕食した蛙型モンスターの特性を吸収して、消化が終わるまで、それを使用できるという独特の特徴がある。


「このお!」


 スカーレットはもう一撃、フェルズトードに打ち込もうとしている。


「離れて!」


 スカーレットがフェルズトードから距離を取る。

 手には鋭い爪が生えている。どうやらサーベリウスフロッグを捕食して、その特性を手に入れたようだ。

 あのまま攻撃していれば、スカーレットの身体は爪で切り刻まれていた。


「っ!」


 今度はヴィオレに電撃を放ってきた。

 横に動きなんとか避ける。

 電撃は直進して、後の木に直撃した。

 木はあっという間に灰になる。

 凄まじい威力だ。

 エレクトロフロッグを何十匹も捕食したのだろう。


「なんなのこの蛙!」

「待って」


 スカーレットを静止して倒すための方法を考える。

 フェルズトードに有効なダメージを与える攻撃を自分とスカーレットは持っていない。


(でも、ちょっとの間だけ、動けなくすることはできるかも。その隙にアクアリーフを持って逃げれば)


 フェルズトードの動きを封じる方法をいくつか思いつき、スカーレットに伝えようとしたその時、


「臭い! ちょっとスカーレット」

「え? アタシじゃないよ!」


 突如凄まじい硫黄臭が周辺に漂った。

 耐え切れず鼻を塞ぐ。

 フェルズトードもこの臭いに耐えられないようで、池の中に逃げていった。

 この臭いはなんなのだろうか。

 いや、何なのかは分かっている。絶対におならの臭いである。

 だが、自分でもスカーレットでも無いとすると、いったい誰がおならをしたのだろうか?


「お前ら何やってんだ!」


 知っている人間の大きな声が耳に入ってきた。

 おならをしたのは、コイツで間違いないだろう。


「ここのモンスター解禁日前に殺したら、保護者の俺が罰金払う事になっちまうだろうが!」


 何故コウスケがここにいるのだろうか?

 いや、それよりも何を食べたら、こんな臭いおならが出るのかが気になる。

 鼻をつまみ続けながら、ヴィオレは必死にそんなことを考えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る