4-5

「かなり乗り気でした。今日中には結果を連絡してくるそうです」

「ガハハハッよくやった!」


 ヴェディの情報通り、ゲス勇者の娘どもは、カネに飢えていたようだ。

 骨が折れている冒険者クズレから報告を聞き、ダスティンは有頂天になった。

 あの地図は色んな所に出回っている有名なものだ。

 何回か人にカネを渡して、この地図通りにアクアリーフを盗りに行かせたが、皆、失敗した。

 あのガキもモンスターに殺されるか、自警団に捕まるかのどちらかだろう。

どうしてそんなにカネが必要なのか知らないが、自分達親子を侮辱したゴミには相応しい末路だ。


「あのう、俺の報酬は」

「あのガキがアクアリーフを盗ってきてからだ!」

「え!? 最初はこの噂を伝えるだけでカネもらえるって」

「なにを言っている! ちゃんとワシに手渡したら1000Gくれてやるから安心しろ!」

「はあ!? 10万Gって話しだったろ!?」


 だが、この地図のルートで密猟にいき、アクアリーフを沢山手に入れたという話もよく聞く。

 もしかしたら、あのガキもアクアリーフの密猟に成功するかも知れない。

 そうなったら、一銭も支払わずに強奪して、密猟したことを世の中に宣伝し恥をかかせて、衛兵隊に突き出す予定だ。その準備も整えている。


「ガハハハハッ」


 どちらになっても、ゲス勇者が苦しむ事は間違いないので、ダスティンは愉快で仕方が無かった。



 

 物音が聞こえ、スカーレットは目を覚ました。

 ヴィオレが外に出る準備をしているようだ。

 いつも熟睡しているこの時間に、どうしたのだろうか?

 気になったので、ベッドから出て声をかけた。


「ねえ、どこに行くの?」

「それは、その……」

「水臭いじゃん。私も連れっててよ」

「そ、それはできないわ」

「どうして?」

「も、もし失敗したら、最悪、アナタも命を落とすか犯罪者に……」

「ヴィオレの事だから、誰かを傷つけるような、本当に酷い事はしないよね?」

「……」

「それに、命を落とすかも知れないなら放っては置けないな」

「でも……」


 ヴィオレはかなり追い詰められているようだ。

 理由はきっと学費の事だろう。

 何をしようとしているのかは分からなかった。

 だが、入門試験の時にしてもらったように、今度は自分が助けてあげなければという想いに突き動かされた。


「アタシ達はゲス勇者の娘だよ! 変な目で見られる事には、お互い慣れてるでしょ!」

「フフフ……そうね」

「アハハ」


 頷き微笑んだヴィオレを見て、スカーレットもつられて笑顔になった。

 


「ツーペアだ」

「スリーカード!」


 自警団の団員たちに王都から支給される俸給は、少ないうえに安定もしない。

 そのため団員になるのは、盗賊ギルドに所属していた過去があるものや、何らかの罪で投獄された経験がある者。問題があり、各地の騎士団や傭兵団、冒険者パーティーを追放された者たちである。

 自警団が王都の治安維持をする組織であるというのは、あくまでも建前で本当の役割は、こういった者たちが徒党を組み治安を乱さないようにするための受け皿である。

 だが、そんな者たちが集まれば、まずろくなことはしない。

C級ダンジョン、フロッググリムフォレストの深夜警備する自警団員たちは、勤務中であるにも関わらず飲酒をしながら賭けポーカーに興じていた。


「ギャハハ! フルハウスだ。さあ、お前らカネを出せ」


「なに言ってんすか? 俺はフォーカー……」


「おらあ!」

「コウスケ、いつも、きたねえぞ!」

「自分が負けそうになると、テーブル蹴ってなかった事にするのやめてくださいよ!」

「なに言ってんだ? テーブルはポルターガイスト現象で飛び跳ねたんだ」


「皆さん勤務中に、なにをやってるんですか!?」


 巡回から帰ってきたばかりの、女の団員が顔を真っ赤にして大声をあげた。

 見たことが無い顔だ。どうやら新人らしい。

 誰にでも優しく接する素晴らしい勇者のコウスケ(自分のことをそう思い込んでいる)は、懇切丁寧に説明してあげることにした。


「見て分かんねえのか? 酒飲みながらポーカーしてんだ」

「非常識ですよ! このダンジョンを密猟者の手から守ろうという気はないんですか!? 我々は何事も無いよう常に警戒を怠っては、ならないはずです!」

「なに言ってんだ? 密猟者がやってきて平穏を乱してくれた方が俺らにとって喜ばしいことだろうが」

「「そうだ! そうだ!」」

「あ、あなた達は本気で、そんな事を言ってるんですか?」

「本気だ。なにも起こらねえより、密猟者を捕まえた方が、俺たちの貰えるカネが増えるじゃねえか」

「み、密猟者が来るわけないと思っているからそんな事が言えるんです! これを見てください!」


 新人の女は地図を広げて見せてきた。

 見覚えがあるものだ。

 これもどんなものかを親切に説明してやる必要がある。


「この地図は、近隣の冒険者ギルドや盗賊ギルドに出回っているものです。調べたところ、印がある地下水路からなら、簡単にこのフロッググリムフォレストに侵入できました。既に何名かが、侵入してアクアリーフを密猟しているとの噂も……」

「でも、この赤い線で描かれたモンスターが少ない経路ってのは、適当な大嘘だったろ?」

「どうしてそれを!?」

「だって、その地図と噂、広めたのは俺だもん」

「ど、どうしてそんな事を……」

「さっきも言ったろ。その方が儲かるからだ」

「わ、我々の仕事は法と治安を守る事です。それなのに犯罪を誘発するようなことをするなんて……」

「何べんも言わせるな。それじゃ儲かんねえだろ。俺らの俸給は雀の涙なんだ。今日の夜勤手当てもたかが知れてる。法と治安より俺らの懐に入るカネの方が大事だ!」


「いよ! 流石ゲス勇者!」

「いいぞコウスケさん! もっと言ってやれ!」

「ギャハハッ俺らじゃなくて俺だろ」


 一緒にポーカーをしていた仲間たちが、喜びながらヤジを飛ばす中、魔道具の呼び鈴が鳴った。

 どうやら鴨がまた何匹か地下水路からダンジョンに入ってきたようだ。


「コウスケさん俺らは、もう少しここで飲んでますんで、お願いします」

「よしきた!」


なお、数か月後に、この密猟誘発行為は、新人の女により告発されて、コウスケは厳正なる処罰を受けるのだが、それはまた別の話である。

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