片翼のラプラスは蝶の夢を見る~私だけが知っている君の物語~
馬場 芥
序章
第1話 ノイズが走る
意識の混濁から抜け出すと、そこには
私の瞳を
夢から目覚めたように意識も回復の
その衝撃は
遅れて飛沫が
毛先には玉のような
今度はずるりと滑るようにして倒れた。床には摩擦と呼べるものがなかった。
はぁはぁはぁ――
私の想像が確証へと近づいているという現状に
心臓を両腕で締め上げるような圧迫感。心臓の拍動が脳まで響き、しまいには耳に膜が張り付いたようにぼぉんぼぉんと三半規管を揺らした。
この恐怖から逃れるためには、違和感の正体に向き合う必要があった。
私を覗き見る恐怖に抗う為に、抑制する己の感情に向き合う。しかし、決心を固めたつもりであったが、いざ行動に移そうとするも
「あぁ、足が……」
モノクロの視界には右足のみが映っていなかった。
私の右足は制服の上から消えたように欠損していた。この現実を認めたくないがために、私の右手が右太股へとすうっと伸びた。その行動は無意識の行動であった。指の腹で太股をなぞるが、依然として足が足であった頃のように痛みは
ない右足に手を潜らせるも、一滴も血液が手のひらに垂れることはなかった。
足が欠損している状況で何故、出血していないのかを考える余裕は、今の私にはない。それでも、切断面が熱く燃えるような、ドクドクと血潮のマグマが吐き出されているような、そんなありもしない感覚に
程なくして、私はこのまま停滞する訳にはいかなかったため、どこにあるか分からない出口へと、這って探し始めた。
石材の地面は凍てつく程に冷たく、ほのかに湿っている。閉鎖的な空間のせいか、空気が重たく淀んでおり、鋭い冷気が我が身を裂いた。そして、生々しい、得体の知れない鼻を突く匂いで、顔を歪ませながら、微かに認識できる濃淡のシルエットを頼りに、ようやく壁へと行きついた。視覚が効かない以上、
ここが、何かしらの建造物であることはすぐに察しがついた。這っていれば、否が応でも、水平の段差や整えられた床など、明らかに自然界の構造ではないことを全身の感覚から感じ取れた。しかし、この空間がどういった構造をとっているのかは分からないが、建造物であるならば必ず扉なるものはあるはずなので、
それ程時間は経っていないだろうが、名も付けようのない様々な感情が時間を引き延ばした。
薄っすらと
私は、不器用な足取りで、壁にもたれかかりながらその場で立ち上がった。そして、黒ずんだ指で、影を溶かす程の騒がしい
私は、胸から溢れ出す希望と、しがみ付いて離さない不安を抱いて、体重を乗せながら扉を押した。
風化した荘厳な扉を開けると、雪崩のように、ぼうっと風が滑り込んできた。質量のある風が
今にも零れ落ちそうな金色の露が、紫色の爆ぜた夜空に浮かぶ。その空に、針で無数の穴を開けたような星が一面に広がる。まるで、油絵の風景画をそのまま黒のキャンバスに書き写したような凄艶さであった。
あの輝きは太陽の光ではなく、月の光であったのか。
何と美しく、幻想的であろうか……。
私の心も、視線も吸い込まれた。
生温い
「おい君、私の声が聞こえるか!この姿はどうしたんだ!」
瞬き程の、知覚できない程のほんの一瞬、目の前にいる女性が白い彼岸花を想像させ、もしや幽霊かと思った。そして、私はすでに死んでしまったのかと想像した。あの扉は天国と地獄の境目であり、目の前に立つ女性は天国への導き手であるかのようで、息を呑む程に圧巻した。
月光が辺り一帯を
目の前の女性は、この世の全ての美しさが霞む程の、そんな美貌を持ち、向日葵ように力強く
鬱蒼とした森の切れ目から漏れる光の粒が私を照らした。そしてようやく、私は私を見た
私の服には大量の血液の濃淡を作っていた。あの空間の所為で鼻がいかれてしまったのだろう。冷ややかな風と共に鉄臭いにおいがむっと香った。
血管が凍った。
私の視線は無意識に、かつ一抹の不安に誘導されるように右足へ移動した。
熟れた
私の意識が
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