第2話 アイドル

「はあ? あんたそんなんで本気で世界狙えるとでも思ってるワケ!?」

 何故だろう…。ついさっきまで、テレビで甲子園見ていて、YOASOBIの「アイドル」が聞こえてきて…。そうだ、それで、「数学界でアイドルって言ったらラマヌジャンだよね~。歌ってみ?」となって…。

 その結果、私は正座。くにちゃん先輩は目の前で仁王立ちに、腕組みである。そう~っと、視線を上げてみる。あっ、邦ちゃん先輩、脚キレイ~。ミニスカート似合ってる~。へらへらするなと叱られた。ぐすん。

「あの、よろしいかしら、小平こだいらさん?」

 きよちゃん先輩! さすがに、手の挙げ方も上品である。

「発言を許可します」

 ん、鬼将軍かな? キッと邦ちゃん先輩からにらまれる。

「ラマヌジャンさんは、インド出身でしょう。だから、日本語は不得手だと思うのよね」

 ぐるっと、振り返る邦ちゃん先輩。だから、怖いって。

「おい、歌え。英語で、『アイドル』歌え。この私が、わざわざ再評価してやるから」

 こちとら、最前から涙目である。立ち上がり、全力歌唱させていただく。結果…。

「ないな。全然ダメだよ。なんなら、日本語よりヘタクソだった」

 だって、それは、普段日本語のほうばかり聴いているから…。俯き思ったが、黙っていた。がっと、顎クイされる。

「だから、そんなことで世界一のアイドルになれると思ってんのかってこっちは聞いてんだよ」

「いえ、その、私は数学一筋で、ホントもう…。音楽に関しては、先輩の足元にも及ばず…」

 顔の前でブンブン手を振る。パッと、手を離される。

「当たり前だよ。私ですら、算数しかできなかったんだから」

 そうして、すんと向こうを見遣った。先輩は、そのまま退室したのだった。

「さすが、フィールズ賞を獲った人は違うわねえ…」

 アイスティーを飲みながら、潔ちゃん先輩がボソッと言った。

「フィールズ賞?」

「ノーベル賞の数学版。あの子、基本的に何でもできるけれど、『ボクは算数しかできなかった』なんて本を書いているのよね。『できる』のレベルが、桁違いというか…。あ、ちなみにプロのコンサートでも、けちょんけちょんに言ってるから大丈夫よ?」

 そうして、上品に首を傾げてみせた。

 じゃあ、無理じゃん。私の歌じゃ無理じゃん。





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