殺した彼女の言葉をインコが覚えていて、すごい責められている気分になる。

秋桜空白

第1話

「ここから出して。ここから出して」

六畳一間のボロアパートでペットのインコがしゃべっていた。

変な言葉を覚えやがってと俺は思った。


付き合っていた彼女を一週間監禁した後に殺した。

恨んでいたわけではない

大好きすぎて苦しくなったのだ。

彼女を自分だけのものにしたかった。


「苦しい。苦しいよお。こー君」

インコは監禁していた時の彼女の発言を覚えてしまったようだった。

煙草を吸いながら、その言葉を聞いていた。


「嫌い。こー君嫌い」

別にいいよ。嫌いになって。と俺は開き直った。

今までも好きな人に好きになってもらえたことなんてなかったし。

慣れてるから。


「こー君。こー君」

嫌われてでも、手に入れたかったんだ。

しょうがないさ。

こうでもしないと君は俺のものにならなかった。


ピンポーン、と玄関のベルが鳴った。

モニターを見ると警察官が二人立っていた。

俺はぞっとした。


彼女を殺したのは昨日だ。

そりゃいつかバレるだろうと思っていたけど、

早すぎやしないか?


「ここから出して。ここから出して」

俺はインコを睨んだ。

きっとこれは彼女からの仕返しだと思った。

「満足か?」と俺はインコに聞いた。


「満足か?満足か?」

とインコがオウム返しをする。

一人の部屋にその機械のような声が響いた。


人生の瀬戸際に俺は何をやっているんだろう。

彼女からの仕返しなんてありえるわけがない。

だって、彼女は死んでいるんだから。

多分殺した時の声が近隣住民に聞かれていたんだ。


俺の一人相撲だ。

ずっとそうだった。


俺は玄関のドアを開けた。

「警察です。署まで同行願います」と警官が言った。

言われるがまま、俺は外に出た。


「こー君。好き。大好き」

玄関のドアが閉まる直前、そんな声が聞こえた気がした。

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殺した彼女の言葉をインコが覚えていて、すごい責められている気分になる。 秋桜空白 @utyusaito

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