ベルナデッタの口づけ

プロローグ

 俺は今、旧岩手県北上市のあたりを歩いている。

この時代にしては気温が低く、今日は35℃だ。

まあ、五月でこの気温って時点でこの世界の異常さが分かるってもんだろう。


 この世界にはかつて文明というものがあったが、いろいろあって無くなってしまった。

俺たち日本人に残されたのは、このクソ暑い気候と縄文時代みたいな生活だけ。

そんな中で俺たちが健やかに生き延びようって思ってもまず無理だろう。

そこを何とかするのが俺たちの「仕事」ってわけだ。


 申し遅れたが、俺の名はヨシカワマサト。

旧文明収束官という任務についている……ことになっている。

俺はこの世界を、任務……いや、仕事のために旅してまわっている。

 

 俺と一緒に旅しているのが、旧文明収束官補助用有機型人工知能という大層な名前をしているこのメイド、ベルナデッタだ。

二人のときは、ベルと呼ぶことが多い。

こいつは名前の通り、仕事の補助をするのが役目だ。

仕事に対して真面目なのはいいが、どうもこだわりが強い。

美学というものがあるのかね。


 旧文明収束官というのには制服がある。

黒いコートに黒いズボン……なんてのが制服ってことになってるが、このクソ暑いのにそんなもの着てられん。

アロハシャツに半ズボンってのが俺のコスチュームさ。

だいいち制服を着ていなくても咎める奴もいないしな。

いや、一人いたが……まあ奴の言うことは気にしないでおこう。


 これから紹介するのは俺とベルの旅の様子だ。

俺たちが何を為して何をこの世界に残せたのか、それを見届けてほしい。

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