らいおんの森

@asuzak

一番最初の記憶

目が開いてないのかな?と勘違いをしてしまうほどの闇の中だった。


ついさっきまでばぁばの家でお昼寝をしていたのにどこを向いても真っ暗。


「ばあば?」


「じいじ?」


「きょうたん?」


そこに居るはずの人を呼んでみる。


しんと静まり返る闇の中にぼんやりと光が見える


『ひとり』も『まっくら』もいつもならこわくて仕方ないのにまっすぐと光に向かって歩いた。



光は月明かりだった。


大きな岩の先には真っ黒い深い森。


岩の端には白い大きな『何か』がいた。


真っ暗な闇の中で月明かりに照らされた真っ白なそれは、ぼんやりと光っているようにも見える。



近づくと寝息をたてて眠っている、ライオンのように見えるが羽がはえている。


鳥の羽根とはまた違うようでぬいぐるみみたいにふかふかして見える。


手持ち無沙汰になって傍らに座ると


(また来たのか…)


とため息交じりの声が聞こえた。


見上げると気だるそうに目を開けているそれと目が合う。


「…お話できるの?」


その問いに驚いたようにピンと耳がこちらを向く。


(君こそ、話せるようになったんだな)


口は動いているように見えない、でも何を言っているかはわかった。


「きみじゃないよ、かはちゃん!」


きょとんとした表情でこちらを見ている。


「かはちゃんはね、名前。おともだちはみんなそう呼ぶからかはちゃんて呼んで?」


(かはちゃん)


「あなたは?お名前は?」


(さぁね、ここには誰かしらやってくるが私を呼ぶものは居ないよ)


その言葉に辺りを見渡してみたが誰かがいる様子はない。


「じゃあ…白いからマシロね」


(…)


何も言わないが不服そうな目をしている。


「かはちゃんも来たことある?なんか知ってるみたい。思い出せないけど…」


(そうだね、ここにはみんな来れる。そしてみんな思い出す事はないんだよ)


「でもマシロが怖くないのは覚えてたよたぶん、だって怖くなかったもん」


(かはちゃんは怖がりだからな…)


「知ってるの?どうして??」


(前に来たときはパンダが怖いと泣いていたからね)


「パンダ?…何で?」


(さぁね、パンダのぬいぐるみを見て泣いている姿をしていたのを見ただけだからな…)


ばぁばの家にある体はパンダなのに顔はシロクマのぬいぐるみをふと思い出した。

まだ赤ちゃんの頃に見せるたびに泣いてたので仕方なく目の周りの黒い部分を取ったという話を聞いたことがある。


(どこに行くにもおねぇちゃまと一緒じゃないと怖いと泣いていたな)


そう言って何かを思い出すように笑う。


「もういいよ思い出さなくて…、みんな思い出すと恥ずかしい事をここに置いていくの?」


覚えてない自分の話は何だか居心地が悪い。


(どうだろうな、人それぞれじゃないかな)


「じゃあ怖い事があったとき来るのかな…」


(…怖い事があったのか?)


優しい目が心配を帯びる。


「もうすぐお休みが終わるからお家に帰らないとだめみたい、ずっとばあばのうちにいれたらいいのに」


(これから起きる怖い事が怖いのか)


「そうなのかな、どんな怖いことが起きるか分かる?」


(どんな事が起きるかは分からない、でも怖い事も楽しい事も起きるよ必ず)


「楽しい事だけがいいんだけど…」


(そうかな?怖い事があったあとの楽しい事は、何もなかったあとの楽しい事よりもずっと楽しいものだよ)


「そうかな…そうだといいけど」


(これからだよ、今はもうパンダが怖くないみたいに今怖い事でもこの先は何でもない事になるかもしれない)


「そうだね、パンダ怖くない。

おねぇちゃま居なくても幼稚園も行けてるし」


(ばあばの家が楽しいから少しさみしくなってるのかもしれないね)


「うん」




月に照らされた闇の向こう側がうっすらと明るくなってきた


(さぁ、そろそろおやすみ。夜が明ける)


ふわふわの羽がおふとんのように包みこんできた。


「明るくなるのにおやすみなんて変なの」


(そうだね…)




辺り一面が真っ白になる


眩しいと目を閉じようとしたけどすでに目をつむっていることに気付く。


目を開けるとばあばの家の天井が見えた。


「…ゆめかぁ…」


マシロの羽はおふとんみたいだったな…。


また会えるかな。

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