フェイティアの花冠

アクア

プロローグ

身体中が優しい快感に包まれている。

ふと気がつけば、俺は誰かに跨って相手を見下ろしていた。自然と体が動き、相手の額に口付けると親指で頬を撫でる。全てをさらけ出した細く美しい体に、胸元にはふたつの膨らみ。そしてベッドに広がる長い髪が、とても綺麗な女だった。相手は俺の欲望を、懸命に飲み込んでいる。顔ぼやけていては全く分からないのに、俺を愛おしそうに見ているというのが理解出来た。


「──愛してる」


勝手に口が動いて、俺は相手に愛を囁いた。愛していると伝えるだけで、胸が燃えるように熱くなる。

手がこちらに伸ばされて、首に腕を回される。女は泣いていた。しかし、それが悲しみからではないと知っているから、俺はとても幸せな気分になった。

恐ろしいと感じるのほど愛情を、女に感じているらしい。止めどなく溢れてくる感情に僅かに恐怖したが、それを徐々に受け止めていく。

俺が体を離して顔を覗き込むと、女はこちらに手を伸ばし、その手を取ると指を絡めあった。俺は、世界で一番幸福な男だろう。そう思うぐらいに、俺は女のことが好きだった。


「──っ」


目頭が熱くなり、ゆらゆらと視界が揺れる。受け止めきれない感情が、瞳から溢れだしていた。何度愛を伝えても、恐らく足りないのだろう。すると、相手は口を開いた。


「ユ──さ──」


なんと言っているんだ、上手く聞き取れない。顔も分からない女に、俺は恋をしてしまったみたいだ。どうか、声を聞かせてくれ。


「──キ──さん──」


耳を澄ませても、女の声は上手く聞き取れない。すると意識が朦朧として、女から引き離されるのが分かった。

駄目だ、しっかりしろ。

まだ一緒に居たい、離れたくない。


俺は女の名前を呼ぼうと、口を開いた──。

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